香港への国家安全法導入から中印国境紛争、尖閣諸島(中国名、釣魚島)での中国公船の活動まで、居丈高な中国外交を意味する「戦狼外交」から、中国の意図を説明する言説が流行している。 【全画像をみる】中国「戦狼外交」を槍玉に盛り上がる反中勢力の誤解。日本やインドと関係悪化は望んでいない しかし中国は、米中対立の文脈から日本とインドとの関係を重視しており、「戦狼外交」とみるのは完全なミスリードだ。 「戦狼外交」は、もちろん中国当局が自称しているわけではない。中国軍の特殊部隊の活動を描いた中国アクション映画「戦狼」(Wolf Warrior)がその由来。習近平政権登場(2012年)以来の中国の「高圧的な外交」の形容詞としてすっかり定着した感がある。 例えば、英経済紙「フィナンシャルタイムズ」のコメンテーター、ギデオン・ラックマン氏は、「中国政府は、香港から台湾、南シナ海、インドとの国境に至るまで、次々と攻撃的な政策を取っている」(6月19日付「日本経済新聞」)と書く。 しかし中国から見れば、香港、台湾は内政問題であり、欧米の批判や報復は「内政干渉」に当たる。中国は米中対立の長期化で、「南」はインド、「東」は日本と韓国、「北」はロシアという「周辺諸国」との関係を戦略的に重視しており、これら周辺国とは良好な関係を維持したいのが本音だ。
インドとの衝突は意図的ではない
まず中印関係。インド北部と中国西部との国境に位置するガルワン渓谷で6月15日、両軍が衝突。石とこん棒による「肉弾戦」によってインド軍の約20人が死亡、中国側も40人近くが死亡したとされる。 国境線が画定していないこの地域での小競り合いは、これまでも報じられてきた。しかし、双方に死者が出たのは1965年以来45年ぶり。これまた中国側が仕掛けた「戦狼外交」という見方が広がった。 衝突の原因について中国は、「インドが挑発、攻撃」と主張し、インド側も「中国側による一方的な現状変更の試み」と真っ向から対立した。各種報道を総合すると、双方が主張する実効線の内側で、中国側が築いた「拠点」ないし「テント」をめぐり、「インド軍が解体を試みたことから発生」(英誌「Economist」)というのが実相のようだ。 中国側は衝突発生以来、死傷者数を含め報道を全面的に抑制し、外交問題に発展させたくない意思を示唆している。軍や外交当局など、政府中枢が意図的に仕掛けた衝突ではなく、国境警備部隊による偶発的衝突の可能性が高い。衝突2日後には、王毅中国外相がインドのジャイシャンカル外相と電話会談し、事態鎮静化を図ったことからもそれがうかがわれる。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース