中国で今何が起きているのか。
日本テレビ中国総局長などを歴任し現在も中国で取材にあたるインファクトの宮崎紀秀がシリーズで伝える2回目。(文、写真/宮崎紀秀)
国家政権転覆罪の容疑
夫が音信不通となった2日後の7月12日、李文足は、夫の名を国営・中国中央テレビのニュースで聞くことになる。 ニュースは、王全璋が所属する北京鋒鋭弁護士事務所を舞台とする犯罪集団を、警察が摘発したという内容だ。 「(弁護士事務所の主任を首謀とする)重大な刑事犯罪容疑のあるグループを警察が潰した。これまでの調べで、40件あまりの敏感な事件を騒ぎ立てるよう画策し、社会の秩序を重大に混乱させたことがわかった」 ニュースはそう報じていた。 この“犯罪グループ”の、計画・行動を担当するメンバーとして、数人の弁護士とともに王全璋の名前が挙げられた。 しかし、それだけであった。 李文足が次に、王全璋の情報を得るのは、それから6か月を待たなければならなかった。
それは、翌2016年1月、天津市の警察からの王の実家に送られてきた一通の逮捕通知書だった。天津の警察が、国家政権転覆罪の容疑で王全璋を逮捕し、天津第二留置所に拘置しているという内容だった。 李文足は、その後、天津の留置所に足繁く通い、面会を求めたり、金や服を差し入れたりしようとする。しかし、何故かそれは悉く拒絶された。窓口でパソコンに王全璋の名前がない、と言われたこともあるという。 面会は家族どころか、家族が依頼した弁護士さえできない状態が続いた。 「本当に、夫は生きて拘束されているのだろうか?」 夫の安否を求めて奔走する李文足の闘いが始まった。
「私が夫を探して何が悪いの!」
李文足は司法部門や留置所を繰り返し訪れ、夫の情報を求めた。夫のイラストを描いた服を着て街角に立った。それらの様子をSNSで繰り返し発信した。夫が中国政府によって連れ去られ、生死さえ不明のまま今に至っている事実が、闇に葬り去られないためである。それは中国では危険な行為でもあった。 だからこんなこともあった。 2018年4月、夫が行方不明になってから1000日目に合わせて抗議活動をしようとしたところ、自宅に連れ戻された。玄関は外から男たちに押さえられた。外に出たくても出られなかった。 その時、マンションの階段の入り口に治安当局者や彼らに動員されたとみられる住民たち数十人が立ちはだかった。李文足の友人らが彼女を訪ねようとしても、その群衆に遮られた。友人がその状況を記録しようと、スマートフォンを構えると、治安当局者の男が「俺を、撮るな!聞こえたか!」などと怒鳴りつけ、威圧した。 そんな様子を群衆は、まるでスポーツ観戦しているかのように囃し立てた。 家の窓から階下を見ていた李文足の目に、自分を見舞おうとやって来た友人たちが暴力を振るわれたのが映った。彼女は思わず身を乗り出し、叫んだ。 「私の夫は弁護士よ!庶民を助けるために、裁判を起こしているの!それなのに捕まって、1000日も経つのに生きているかどうかも分からない。私が夫を探して何が悪いの!あなたたちには良心のかけらもないの!」 そんな経験があったからであろう。自宅で話を聞いた時、李文足はこう言って涙を流した。 「政府によって何年も行方不明になった夫を、妻が探すことが何の法を犯しているというのですか。法を犯してもいないのに、大勢の人に囲まれて侮辱される。勝手に自由を制限される。1人で十数人に勝てるわけがない。時には殴られ、時には罵られて…。その時は虚しいし、絶望的になります」 (続く)
宮崎紀秀
Source : 国内 – Yahoo!ニュース