東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出を受け、中国が切ったカードは日本産水産物の全面禁輸だった。日本からは「想定外」「異常な対応」との声が上がるが、今後の経済的な影響は小さくない。両国関係が上向かず、政治的解決の糸口も見えない状況だ。
24日までの2日間、上海では「国際漁業博覧会」が開かれた。オーストラリア産マグロの解体ショーなどで盛り上がりを見せた会場には、約30カ国から4千社超が出展。だが、日本企業はわずか数社程度だった。
そのさなか、日本産の水産物の全面禁輸が発表され、関係者には衝撃が走った。「冷凍は在庫があるけれど、今後取引先がどう反応するかわからない」。日本の冷凍マグロを扱う業者の担当者は顔を曇らせた。
農林水産省によると、昨年の中国への水産物の輸出額は、国・地域別で最も多い871億円。このうち467億円と品目別最多で、刺し身などが人気なのがホタテだ。日本の冷凍ホタテの卸業者は肩を落とす。「放出前ですら取引のある数十店からやめたいと言われている。今後が怖い」
ALPS処理水を「汚染水」と呼び、放出に反対し続けてきた中国。中国政府と国営メディアの論調は、「危険」「無責任」一色のため、市民の間では不安が高まっている。これまでは様子見の市民も多かったが、スーパーやネットショッピングで塩が品薄になるなど、過剰ともいえる反応まで出ている。
中国は海洋放出が近いとみられた6月から批判の度合いを強め、「(海洋放出は)コストの安さを見込んだ方法だ」として見直しを求めてきた。
計画が「国際的基準に合致する」とした国際原子力機関(IAEA)の調査報告書が出た直後の7月には、2011年の原発事故から禁止されてきた10都県以外の水産物などへの放射能の検査を強めると発表。通関に2週間~1カ月程度かかるようになり、鮮度が保てないため冷蔵(チルド)の鮮魚は事実上、輸入が止まっていた。
今回の全面禁輸は全国が対象で、冷蔵や冷凍を問わず、魚類や貝類、甲殻類、海藻なども幅広く適用されるとみられる。
中国にとって、水産物輸入額(20年)トップ10に日本は入っておらず、経済的損失は大きくないとの判断もあったとみられる。香港も24日から10都県を対象に水産物の輸入を停止した。昨年の輸出額は755億円で中国に次ぐ2位。日本にとっては影響は小さくない。
外交上のはたらきかけも目立った。
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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