中学入試をふりかえる コロナ禍が変えた出題傾向

 コロナ禍での入試シーズンが終わった。中学入試の問題の傾向に、未曽有の事態はどう影響したのか。(柏木友紀)

 「紙・段ボール・和紙・Tシャツ・ビニール袋・ペットボトル、アルミホイル……(中略)。材料から3種類だけを選び、性能がよく快適に使用できるマスクを考えなさい」

 今年2月、広尾学園中(東京都港区)の入試で出題された理科の問題だ。どの素材をどの場所に使ったのかが分かる完成図と、その理由を説明する。

 「ふだん身のまわりで目にする事象を扱い、物事を科学的に捉える姿勢を問う良問」と、理科教室を主宰する古谷広高さんはみる。今回の中学入試の理科の問題全般を見ると、新型コロナをはじめウイルスについて正面から問う問題はそれほど多くなかったという。一方、コロナ禍で外出の機会が減ったこともあり、家の中の身近な題材を理科的に考え、実際に手を動かした経験を問う問題が目立った。

「アジの開き」題材に

 海城中(新宿区)は「アジの開き」を題材に、背骨やはらわたの位置を図示させる問題を出した。鷗友学園女子中(世田谷区)では自転車やボールペン、マジックハンドなどを例にばねの仕組みを問う出題があった。「日頃から好奇心を持って自ら考える生徒を取りたいという学校のメッセージが伝わってくる。これらは大学入学共通テストで求められる力でもある」と古谷さんはいう。

 コロナの影響が直接的に出題傾向に表れたのは社会だ。長年、入試問題を研究している文教大地域連携センターの早川明夫講師が私立中を中心に86校の問題を分析したところ、約50校でコロナ関連の出題があったという。

 中でも感染症の歴史は頻出で、渋谷教育学園渋谷中(渋谷区)は年表を元に世界保健機関の英語略称の「WHO」などを答えさせた。マラリアやペスト、スペイン風邪などの流行を年表で示し、各時代の出来事や地理などを尋ねた学校もあった。

 さらに、「現代の社会生活に与えた影響について考えさせる問題も目立った」とサピックス小学部の玉井滋雄事業本部長は言う。休校によるオンライン授業の課題を憲法26条の「等しく教育を受ける権利」に照らして考える市川中(千葉県市川市)の問題や、コロナ禍で株価が伸び悩んだ業種を選ばせる聖光学院中(横浜市)の問題が目を引く。玉井さんは「社会科は世の中の動きと連動する。日常の出来事に関心を持ち、知識だけでなく背景まで考える必要がある」と話す。(柏木友紀)

拡大する駒場東邦中の入試会場で、手指の消毒とサーモグラフィーによる検温を受けて入場する受験生=2021年2月1日午前7時1分、東京都世田谷区、瀬戸口翼撮影

停滞・閉塞感漂う問題文

 国語はどうだったのか。

 平山入試研究所の小泉浩明所長は、問題文の雰囲気が総じて非常に暗いことに驚いたという。国立・私立中を中心に81校の問題を分析した結果、日本の停滞や閉塞(へいそく)感を感じさせる主題を取り上げたのは少なくとも14校にのぼった。

 早稲田中(新宿区)は、ロバート・キャンベル著「『ウィズ』から捉える社会」を題材に、パンデミック(世界的大流行)の中で他者との関係を見つめ直す問題を出した。災害で避難生活が長期になった場合、子どもたちに何を体験してほしいと考えるかを記述させる問題を出した学校もあった。小泉さんは「国語は現代の状況が反映される入試科目になりつつある。先行きが不透明な時代に、自ら考え生き抜く力をみたいのだろう」とみる。

 学校やPTAへの不信感を募らせる家族の姿などを描いた工藤純子著の児童書「あした、また学校で」を長文読解の大問として取り上げたのは、駒場東邦中(世田谷区)だ。入試で使う題材としては「意欲的」(塾関係者)との受け止めもあった。

 国語が専門の小家一彦校長は「あえて社会問題を取り上げたというよりも、様々な見方のある身の回りの現象を正確に読み取り、自身の感受性で主体的に物事を考えてもらいたかった」と出題の理由を語る。

 正確な読解力と主体的な思考力は、1月に初めて行われた大学入学共通テストが求める学力でもある。(柏木友紀)

拡大する今年の中学入試に臨む受験生たち=2021年1月、東京都内

適性検査 より深い読解力を問う

 公立中高一貫校では以前から、身近な事柄を題材に読み取る力や論理的に考える力、それを表現する力をみる「適性検査」を実施してきた。塾関係者によると、直接的にコロナの影響を感じさせる問いは見られなかったが、これらの力を試す傾向は今回も際立っていた。

 都立小石川中等教育学校(文京区)では、おでんと豚汁に使うダイコンが、切り方によって味のしみこみ方に違いが出る理由や、それを検証する方法を文や図で記述させる問題が出た。都立大泉高校付属中(練馬区)では、ボールペンの芯の太さとインクの消費量の関係について説明させる出題があった。

 栄光ゼミナールで公立中高一貫校受検責任者を務める宮田篤史さんは「適性検査では複数の資料などから大意をつかみ、自らの体験や意見をからめて説明させる問題が主だったが、今回はより細部まで読み取らせたり、社会の動きを踏まえたうえで、より深く考えを説明させたりする出題が目立つ」という。「家庭科や理科、社会など科目横断的な要素も増え、知識やパターンで覚えるのではなく、ふだんから論理的に自ら考える力を、学校も社会も必要としている表れではないか」とみる。(変わる進学)


Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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