真っ白な海上コンテナのような外観。和歌山県立近代美術館の前に置かれたのは、8月下旬のことだ。
直径1メートルほどの円窓を、来館者は不思議そうにのぞき込んでいく。
室内は、無駄をなくした宇宙船を思わせる。
わずか10平方メートルほどの空間に、作り付けのテレビや冷蔵庫、大きめのベッド。ユニットバスがあるが、台所設備はない。
オーディオは、ソニーのテープレコーダー。当時の最先端だ。
「人間の生活に何が一番必要か。一つの答えが詰まっている」。学芸員の井上芳子さん(55)は言う。
こうしたカプセル型の居室140個を積み重ねたような集合住宅が、東京・銀座にあった。
「中銀(なかぎん)カプセルタワービル」。世界的な建築家の故・黒川紀章氏が設計し、1972年に建てられた。
個性的な外観で愛されてきたが、老朽化などの理由から2022年に解体された。
そのカプセルの一つが、和歌山でアート作品となって、「中銀カプセルA908」という名が付いた。2棟あったタワーのうちA棟の9階8号室だった。
建築思想は実現しなかった でも…
カプセルタワーは、黒川氏らの建築家グループが提唱した建築思想「メタボリズム(新陳代謝)」の代表作とされる。
生き物の新陳代謝のように、建築も時代や用途の変化に応じて空間や機能を取り換えて成長させる――。
そうした思想のもとに、カプセルを取り外して移動や交換ができるようにデザインされていた。
ただ、移動や交換は一度も実現しなかった。そして、半世紀の時を経て解体へと向かう。
半世紀を経て旅立ちの時を迎えた黒川紀章氏のカプセル。記事の後半では「第二の人生」を写真とともに紹介しています。
オーナーや住人らが14年に立ち上げた「中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト」は、状態のよいカプセル23個を修復し、活用の道を探った。
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国立民族学博物館、国立文楽…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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