九州北部で28日、日本海に延びる前線の影響で猛烈な雨が降り、田畑を含む広い範囲が冠水する被害が発生した。水稲や園芸作物、大豆などが冠水した他、家屋や車の浸水被害も続出し、JAは災害対策本部を設置するなど対応に追われた。農業被害の全容把握には時間がかかる見通しだ。
27日から降り続いた大雨は容赦なく園芸ハウスに流れ込んだ。福岡県久留米市の長門石地区。農家の吉田徹さん(56)の3・5アールのハウスは泥水に漬かった。半日たっても水は引かず、60センチほど漬かったまま。先週定植したばかりの菊の上にはごみが浮いていた。
11月出荷を見据え、苗作りから手塩にかけてきた電照菊の白系「神馬」と赤系「美吉野」。次期作に使う苗も確保する予定だった。
ハウス周辺も水があふれているため室内から水がなくなるまでには時間がかかる。菊が全て腐ってしまうため全滅だという。JAくるめは吉田さんの分も含め1・3ヘクタールの菊で浸水を確認した。
菊以外にも2ヘクタールの大豆畑や水稲、レタス類が浸水。大豆や水稲は水が引けば防除もできるが、収量減の懸念がある。昨夏、先月と連続して襲う豪雨被害に、吉田さんは「もうお手上げだ。農家の力ではどうすることもできない」と嘆く。
JA管内では菊以外に、水稲や大豆の他、リーフレタスなどの主力品目でも浸水を確認。JA職員による目視調査では28日昼までに水稲が推計で150ヘクタール、大豆が30ヘクタール、リーフレタス30ヘクタール、サラダナ6ヘクタールなどで浸水を確認した。
JAは同日朝に災害対策本部を立ち上げ、職員間で情勢を共有。今後も調査を進める。家永光啓専務は「先月の豪雨被害からの連続で生産者はショックを受けている。被害を確認し、対策や支援を行政に求めていく」と強調する。
大豆 無残
佐賀県唐津市のキュウリ農家、中原千恵さん(35)はハウス12アールが30センチ冠水する被害を受けた。裏手の山から滝のように水が流れ込んでいたという。まもなく収穫が始まる予定だった。「最悪だ。根腐れで全滅もあり得る。自然のことで何もできず歯がゆい」とうなだれる。
昨年7月にも大雨で冠水した。「この地域は災害が少ない印象だが、2年続けて雨の被害を受けた。この先どうなるか不安だ」と口にする。
同県白石町の女性農業者グループ「カチカチ農楽(のら)が~る」の会長で、農家の黒木貴子さん(52)は「こんな大雨は体験したことがない」と話した。夫の88歳の両親も「こんなに降ったことはない」と驚いていたという。30アールのタマネギの畑は冠水。11月の植え付けに向け、土作りを進めていた矢先で「栽培に影響が出るかもしれない」と不安視する。70アールの大豆の根腐れも懸念する。同グループの唐津市や伊万里市のメンバーからは田んぼやハウスが冠水しているといった連絡が入っている。
豪雨で氾濫した牛津川ぞいの佐賀県小城市では、開花期の大豆が冠水した。農家によると、受粉がうまくいかずに収量が落ちる恐れがあるという。
冠水した大豆畑の隣で飲食店を営む蔵戸美喜子さん(83)によると、午前8時ごろに水路が決壊し畑に流れ込んだという。「30年間ここで店を営んでいるか、この水路があふれたのは初めて」と驚いていた。
JA佐賀中央会は28日、災害対策本部を立ち上げた。行政機関とも連携して 情報収集を進める。田畑の冠水や住居の浸水被害を警戒する。
日本農業新聞
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