「朝日地球会議2020」のセッション「不要不急のチカラ~コロナ禍で考える五輪、音楽の価値」(10月11日午後3時~)に登壇するパネリストの一人が、作家でミュージシャンの辻仁成さん(61)です。
辻さんはいま、フランスの首都パリで息子さんと暮らしています。パリはこの春、新型コロナウイルスの感染拡大によりロックダウン(都市封鎖)が実施され、外出制限がかかりました。近著「なぜ、生きているのかと考えてみるのが今かもしれない」(あさ出版)には、そのころの様子が描かれています。絶望から希望を取り戻し、大事な日常を放棄せず、なぜ生きているのかを問い直す。読み手にとって、そんなきっかけになればとの願いが込められています。
「作家としては得がたい経験となったけれど、子どもと2人で暮らしているので、彼がこれから暮らしていく今後の世界を考えると絶望のほうが大きかった」と辻さんは振り返ります。
- 「朝日地球会議2020」
- 10月11日からオンラインで無料開催される「朝日地球会議2020」では、辻仁成さんら多数の登壇者と地球の未来を考えます。事前登録や詳しい内容はこちらから
4月下旬、辻さんは朝日新聞に寄稿したコラムにこうつづりました。
「新型コロナウイルスの脅威は感染力の強さや致死率の高さだけではない。このウイルスには人間を分断させる恐ろしい副作用がある。人と人を引き離す、人と人の関係を断ち切るもう一つの破壊力も忘れてはならない。このウイルスの登場で、人々は社会的距離を強いられ、握手もハグも出来なくなった」
パンデミック後「どういう世界のあり方を見つけるか」
このウイルスの「真の毒性」は、人々が友人や家族に会いに行けず、遊びに行くこと、集会に参加すること、コンサート会場やサッカースタジアムで歓声を張り上げることなどもできなくさせてしまったことだと辻さんは考えました。
コロナ禍により、世界のいたるところで生観戦の醍醐(だいご)味が味わえる舞台が消えました。今年7月24日に開幕するはずだった東京オリンピック(五輪)もその一つ。コロナの影響で、1年延期が決まりました。
辻さんが暮らすパリは2024年夏季五輪の開催都市に決まっています。フランスは近代五輪を提唱したクーベルタン男爵の母国でもあります。五輪はポストコロナでどのような形になるのか、辻さんは国内での議論を日常的にニュースで耳にしています。
東京五輪について尋ねたら、こう語ってくれました。
「僕は60年生きてきて、バブルの時代も経験しました。パンデミックの世界で考えなきゃいけないことは、人類がどういう新しい世界のあり方を見つけるかだと思います。スポーツも音楽も文化も経済もすべて切り替わる。コロナは終息すると思うけれど、簡単ではない。それを経験した人類が持つべきものは何か。五輪がそれを定義してくれるかもという希望を抱いていますし、逆にそれを抜きには語れないと思います」
東京五輪からパリ五輪へ「未来つくる絶好の機会」
「正直、スポーツはあんまり得意じゃないんですよ」という辻さんですが、欧州で活躍するプロサッカー選手、岡崎慎司さんや長谷部誠さんらと交流があります。パリで開かれるフェンシングのワールドカップの観戦に息子と行くなど、五輪メダリストの太田雄貴さんとも親交があるそうです。「スポーツ選手も悩んだり、壁にぶつかったりする。岡崎さんらを見ていて一流のアスリートが抜きんでていると思うのは、自分に対して甘くない、妥協しない。そんなオーラがありますよね」
今回のセッションには辻さんのほか、国際オリンピック委員会(IOC)委員であり、国際体操連盟会長でもある渡辺守成さん(61)もパネリストとして登壇します。渡辺さんも、来年の東京五輪を「日本の未来のあるべき姿を作る絶好の機会」と考えています。
辻さんと渡辺さん。同年代の2人が互いの専門分野である文学、音楽、スポーツを切り口に、どんな議論に発展し、新たな気づきを提示してくれるのか。11日の地球会議のセッション、ぜひご視聴ください。(編集委員・稲垣康介)
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「朝日地球会議2020」(10月11~15日)は新型コロナウイルスの影響ですべてオンラインで開催します。メインテーマは「新しい未来のための5日間」。米大統領選や気候変動、SDGsなどをめぐり、パネル討論など20を超えるセッションを配信します。プログラムの詳細と事前登録は公式サイト(https://www.asahi.com/eco/awf/?cid=awf20ds)から。
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1959年生まれ。97年に「海峡の光」で芥川賞を受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野でも幅広く活動。パリ在住。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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