亡き母「今、存在の大きさを実感」 熊本地震遺族代表のあいさつ全文

 熊本地震から6年となる14日、犠牲者追悼式で遺族代表の持田佳征さん(54)は、地震で失った母親について「いつも家族のことを一番に考えてくれる本当に優しい人でした。今その存在の大きさを実感しています」と語った。悲しみを抱えつつ「これまで多くの方々からいただいた温かい応援や励ましの言葉が私たちを救ってくれました。人の支えやつながり、たくさんの方々の励ましがあったからこそ、苦難を乗り越えることができた」と振り返った。

 追悼式で述べた全文は以下の通り。

 熊本地震の発生から6年となる本日、遺族を代表して、謹んで追悼の言葉を申し上げます。

 6年前の4月14目、熊本地震の前震が私たちの故郷を襲いました。当時、私は熊本市内で妻と2人の子供たちと暮らしていました。これまで経験したことのない大きな揺れにより、家財は散乱し、子供たちもおびえていたことを昨日のことのように思い出します。

 我が家は何とか無事であることを確認し、安堵(あんど)したのと同時に、御船町の実家で暮らす両親の安否が頭をよぎりました。

 間もなくして、父と電話がつながると、「家の荷物がぐちゃぐちゃで片付けが大変だ」と、とても落胆している様子でした。翌日の夕方に再度電話を入れ、「俺も片付けに帰るよ」と言うと、母は「土曜日の朝からでよかよ」と、仕事がある私を気遣ってくれました。

 しかし、それが母との最後の会話となってしまいました。16日未明に襲った再度の激震により実家は全壊し、母は帰らぬ人となったのです。

 小学校に避難していた私に、父から、「かあちゃんがわからん」と憔悴(しょうすい)しきった様子で連絡がありました。父はがれきの下からなんとか助け出されたとのこと。頭が真っ白になりました。居ても立ってもいられない私は、着の身着のまま妻母はいつも家族のことを一番に考えてくれる本当に優しい人でした。元気でいるのが当たり前だと思っていた母を亡くし、今その存在の大きさを実感しています。と子供たちと一緒に実家へと向かいました。助かってくれという願いと、諦めの気持ちが交錯する中、本震直後の夜道を無我夢中で進みました。

 実家に到着するまで、かなりの時間がかかりましたが、母はまだ見つかっていませんでした。消防の方々が母の携帯電話を鳴らしながら懸命に捜索してくださっていました。

 しかし、残念ながら発見されたのは、仏壇の前で変わり果てた母の姿でした。

 それからというもの、大切な母を亡くした私たち一家は悲しみに暮れながら、ぼうぜんとした日々を過ごしていました。父も「自分が先だったらよかった」と嘆き悲しむこともありました。予期せぬ別れでできた心の隙間をなかなか埋めることができませんでした。

 しかし、これまで多くの方々からいただいた温かい応援や励ましの言葉が私たちを救ってくれました。人の支えやつながり、たくさんの方々の励ましがあったからこそ、苦難を乗り越えることができたと、今はそう実感しています。これからの私の人生は、恩返しの気持ちで過ごしていきたいと強く思っています。

 2年前に、私たち一家は、御船町の実家の同じ集落に自宅を再建し、現在は父と一緒に暮らしています。当時中学生だった息子は就職し、県外で暮らしています。小学生だった娘も高校生になりました。子育てが落ち着いた頃に両親と一緒に家族旅行を計画していたのですが、それがかなわなかったことが心残りです。また、両親の金婚式をお祝いしてあげられなかったことも残念に思っています。ただ、家族で支えあいながら、なんとか自宅を再建できたことは、母の供養になったのではと思っています。

 母はいつも家族のことを一番に考えてくれる本当に優しい人でした。元気でいるのが当たり前だと思っていた母を亡くし、今その存在の大きさを実感しています。母は陸上部だった私の息子を「頑張ってね」と一生懸命応援してくれていました。亡くなった後、息子が高校駅伝熊本大会で優勝した時は、きっと、天国かの母の声援が息子に届いたのだろうと思いました。また、息子がおばあちゃんとの約束を果たしてくれたのだと思うと、涙が止まりませんでした。

 被災され、辛く悲しいご経験をされた多くの皆さんは今もなお、それぞれの思いを胸に、日々を力強く歩んでいらっしゃることと思います。復興はまだまだ道半ばですが、故郷熊本の復興と共に、私たち家族もしっかりと前に進んでいきたいと、改めてここに誓います。

 最後になりましたが、改めまして、これまで地震へのご支援をくださった皆様、地震からの復旧・復興に携わっていただいた皆様に深く感謝を申し上げます。そして、皆様にはこの熊本地震を教訓に、大切な家族を守るための備えをしっかりとしていただきたいと、心から思っています。

 熊本地震で亡くなられた全ての方々の御霊の平穏を心より願いますとともに、新型コロナウイルス感染症の収束と、紛争や戦争のない平和な世界が訪れますことを祈念いたしまして、遺族代表の言葉といたします。

令和4年4月14日

遺族代表 持田佳征

 熊本地震 2016年4月14日午後9時26分にM6・5の前震、16日午前1時25分にM7・3の本震が発生。熊本県中部を走る布田川・日奈久(ひなぐ)両断層帯を震源に、観測史上初めて2度の震度7を記録した。死者は熊本、大分両県で276人(今年3月11日時点)に上り、震災後に亡くなった災害関連死が8割を占める。全半壊または一部損壊した住宅は約20万棟で、熊本県南阿蘇村では全長約200メートルの阿蘇大橋が崩落した。

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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