京都市伏見区のアニメ制作会社「京都アニメーション」第1スタジオで35人が死亡し、34人が重軽傷を負った放火殺人事件は18日、発生から1カ月を迎えた。
全身やけどで入院中の青葉真司容疑者(41=さいたま市、殺人容疑などで逮捕状)は予断を許さない状態が続き、動機や経緯の解明が待たれる中、事情聴取のめどは立っていない。数多くの事件を取材してきたジャーナリスト大谷昭宏氏(74)が現場に入り、事件の背景にある時代の空気感を指摘した。
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放火殺人事件から1カ月。猛暑の中、現場のスタジオでは、祈りが途切れることはない。これまで「事件記者」として多くの凄惨(せいさん)な事件を取材してきた大谷氏は1カ月を迎える直前に現場に入った。 「1つの事件で、日本だけではなく広く海外からも訪れ、涙ながらに手を合わせ、心を痛めている。こんな事件は、これまで私の事件取材の中でもなかった」 青葉容疑者は簡単な意思表示ができるようになったが症状は依然として重く、逮捕できる状態に回復するのは数カ月先になる見通し。献花台のノートのメッセージを読んだ大谷氏は「極刑は免れない」とした上でこう続けた。
「あらゆる手を尽くして、青葉容疑者を公判に出廷させ、なぜ凶行に及んだのか、責任能力があるのか、ないのかをきちんと明らかにしていく。極刑にいたるまでの過程で、つまびらかにしていくのが社会の責任だと思う。そうでないと亡くなられた方の無念は晴れない」
事件直後に身柄を確保される際、青葉容疑者は「(同社が)小説をパクりやがって」と叫んだ。京都アニメーションが行った小説の公募には、同姓同名の人物から応募があったが、形式上の不備から1次審査で落選していた。
現場を歩き、大谷氏はあらためて強く思ったことがある。「川崎のカリタス学園児童殺傷事件、大阪・千里山の交番拳銃強奪事件、思い通りにならないことを卑劣な暴力に訴えようとする。自らの理不尽な意思を通すために、無差別に人をあやめたり、傷つけたりすることに、私たちの社会が鈍感になりすぎていやしないか」。
スタジオの前に立ち、汗をしたたらせながら、事件の背景をこう指摘した。「政治を含めて私たちの社会が理不尽なことに対して真剣に向き合わないと、こういう犯罪を許し、起こさせてしまう下地ができてしまう。隠し通したり、脅したり、大声を上げれば、どんな理不尽なことでも通ってしまう。そんなことは許さない社会をつくっていかなければいけない」。事件記者はそう声を大にした。【松浦隆司】
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