人工血液を血管に流す――といってもSFのアンドロイドの話ではなく、実際の研究だ。奈良県立医科大学(奈良県橿原市)の酒井宏水(ひろみ)教授(52)は、いつでも誰でも使える人工血液の実用化を目指す。長く保存でき、輸血時に血液型も気にしなくて良い。研究を始めて25年以上が経ち、ヒトで安全性を調べる一歩手前まで来た。
人工血液という言葉が国内で登場したのは1940年代。血液の中で酸素を運ぶ役割の「赤血球」を人工的に作る研究がさかんになった。70年代には化学物質の液体に酸素を溶かした「白い血液」が話題になったが、体内で分解されにくいなどの問題があった。
一つの赤血球には、酸素と結びつくヘモグロビンが約200万個入っている。酒井教授は、献血された後、3週間の有効期間が切れた赤血球から取り出したヘモグロビンを、実際の細胞に近い脂質の膜でカプセルのように覆って「人工赤血球」を作っている。
ヘモグロビンと酸素を結びつかない状態にさせる技術を開発し、室温で2年間保存できる。赤血球の外側にある「糖鎖」の種類で血液型が決まるが、人工赤血球には糖鎖がない。輸血時に血液型を気にしなくていいのも利点だ。
輸血した血液が原因で肝炎が起きた事件などで、人工血液のような血液製剤の製品化に対して、企業の抵抗感は根強い。そのため、人工赤血球はウイルスを不活化して除去するという二段階の工程で、安全性を高めた。血管内から排除されやすいため、長く体の中にとどまる心配もないという。
現在は500ミリリットル分作るのに30万円近くかかる費用が課題だが、「出産時の大量出血など、病院に到着する前の段階で命が失われないよう、非常時や災害時の血液に使いたい」と意気込む。2020年にはヒトで安全性を確認する臨床試験を始める計画だ。ペットや家畜用の人工血液の実用化も探っている。(後藤一也)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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