福岡県中間市の双葉保育園で男児がバスに閉じ込められて死亡してから29日で1カ月。事故の背景には、送迎バス運行に必要な人手の不足もあった。国が定める配置基準を満たす認可保育園だったのに、なぜ惨事を防げなかったのか。理由を探ると、保育業界に特有の事情も見えてきた。
事故が起きたのは7月29日。園児の倉掛冬生(とうま)ちゃん(当時5)が登園のバス車内に取り残され、熱中症で死亡した。バスには、運転手の園長以外に同乗者がおらず、乗車時に回収すべきバスカードを受け取らなかったり、降車後の車内の確認が不十分だったりといった複数の過失が重なり、事故につながった。
園側への取材で、園長がバスを1人で運行していた経緯がわかってきた。
園の弁護士によると、従来は別のバス1台を運転手と保育士の2人態勢で運行していた。だが、経路や時間帯の面でバス利用が難しい家庭があったため、2019年春ごろから、園長がもう1台のバスを1人で運転するようになった。
昨年4月からはこのバスの利用者が増え、保育士1人を同乗させることもあった。ただ、登園の受け入れに人手を割く必要もあるため、日によってまちまちで、今年の4月以降は再び園長1人の態勢に戻った。
この間、園は運転手の募集もしていたが、なかなか見つからなかった。今年6月にやっと1人を確保したが、この運転手は週2日のみの勤務で、ほかの週3日は引き続き園長1人。事故はその1人の日に起きた。
認可保育園には「0歳児3人に対し保育士1人」といった配置基準があるが、送迎バスには配置基準や安全管理規則はない。福岡県は事故を受けて、9月をめどに送迎バスの安全管理について定めた独自の指針を作り、今後は定期監査の項目にも加える方針だ。
コロナ禍、負担増す保育現場
ただ、人員配置のルールが単に強化されることには、懸念の声もあがる。
ある保育園の関係者によると、早朝から夜まで子どもを預かる保育現場では、配置基準を満たしていてもすべての時間帯で十分な態勢をとることはそもそも難しい。加えて新型コロナウイルスの感染拡大により、園内の消毒や園児の健康管理など保育士の負担は増しているという。
中間市の市立保育園は、今年3月まで送迎バスを運行していた。運転手を業者に委託していたが、それでもバスに保育士1人を同乗させるため、その保育士のクラスでは他の保育士がカバーする必要があり、どうしても調整できない時には、保育士資格を持つ事務職員をバスに乗せることもあったという。
市は財政難や利用者減でバス…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル