人気番組への抗議と炎上…テレビから消えた吃音芸人はいま何を思う

 TBSの人気バラエティー番組「水曜日のダウンタウン」で2022年7月、吃音(きつおん)があるお笑い芸人へのどっきり企画が放送され、議論を呼んだ。渦中にあった芸人はその後、沈黙。彼はあのとき何を思い、いま何をしているのか、訪ねて取材した。

 22年7月6日、水曜日のダウンタウン。芸人のチャンス大城が後輩で吃音があるインタレスティングたけし(以下、インたけ)にどっきりをかける企画が放送された。

 チャンス大城に怒られ、慌てたインたけが言葉に詰まる。その様子を、スタジオで見ていた芸人らが笑い、「変なやつや」などの発言もあった。

 放送後、NPO法人「日本吃音協会」(東京都新宿区)が「吃音当事者へのいじめや精神的被害を助長する恐れがある」としてTBSに抗議。SNS上では、抗議への賛同のほか、「過剰反応ではないか」「吃音者は芸人になれないのか」と、抗議に対する批判も上がった。

 インたけはSNSで「またテレビ出たいなぁ!」とつぶやいただけで沈黙を続けた。

 記者はSNSで連絡を取り、インたけに当時のことを聞いた。

 「怒っていないし、むしろテレビに出られてうれしかった」

 その後に沈黙を続けた理由は「吃音のことで議論したくなかった」と明かした。

 インたけは中学生のとき、ラジオ番組にお笑いネタを送る「はがき職人」だった。ネタが初めてラジオで採用されると、自分が認められ、居場所を見つけられたように思えた。

 高校を中退し、音楽が好きだったので、駅で弾き語りをした。言葉は詰まるが、歌はすらすら歌えた。

 バイトでは接客でうまく言葉が出ずミスばかり。同僚から「何言っているかわかんないんだよ」と罵倒されたこともあった。

 仕事を転々とし、スーパーで清掃のバイトをしているとき、上司から「話し方がおもしろいから、お笑いでもやってみたら」と冗談交じりで言われ、お笑いを志した。

 「滑舌悪い芸人」として大手芸能事務所にネタを見せに行くと、評価され、所属することに。ライブでも人気が出た。

 しかし、当初は滑舌の悪さという珍しさで笑ってくれていた客も慣れ、それだけでは笑わなくなった。人間関係などの悩みもあり、芸能事務所を辞めた。

 今は、清掃の仕事をし、週末にお笑いライブに出る。

 自ら吃音を持ち「吃音ドクター」と呼ばれる九州大学病院の菊池良和医師によると、吃音は、子どもが長い文章を話せるようになる2歳から4歳の間から起きることが多いとされる。なめらかに話そうとして言葉に詰まるためだという。

 日本の研究グループが、2千人の子どもについて、吃音が発生する割合を調査したところ、4歳までに一時的に10%が吃音になっていたことがわかっている。そして、男児の62%、女児の79%が3年で自然回復しているという研究や、小学生では吃音がある割合が1%になっているという疫学調査もあるという。

 米国やイギリスなどでは、吃音は発話の多様性の一つとして認知されているという。「国内でも、治すのではなく、吃音の人が吃音を持ったまま参加できるような社会が理想です」と菊池医師は言う。

 インたけはこう話す。

 「このしゃべり方は、そういう一つの個性として見てもらいたい」「僕は一切、このしゃべり方で後悔したとかそういうこともない」

 そのうえで「僕は、これからでもテレビに出たい。有名になりたいんです。僕を見て、ネタを見て、笑ってください」。(芸名は敬称略)(編集委員・沢伸也)

     ◇

インタレスティングたけし 1979年9月生まれ。高校を中退し、音楽の道を進みながらバイト生活を続けていたが、25歳で芸人に転身。一時は大手芸能事務所に所属し活動していたが、いまは、フリーで活動している。

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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