村山斉の時空自在〈15〉
ラグビー・ワールドカップ(W杯)で日本が初の8強入りを遂げた。
私も高校時代はラグビー部だった。体は小さいが50メートル走で6・4秒の瞬発力を買われ、オーストラリア出身の友人に誘われた。背番号6のフランカー、W杯日本代表のリーチ・マイケル主将と同じポジションだ。とはいえ開校したばかりのチーム。結局、1勝もできなかったが。
ボールは楕円(だえん)形の変な形をしているので、地面へ落ちるとどこへ跳ねていくかわからない。「人生はラグビーボールのようだ」といわれる。
W杯スコットランド戦での勝利は歴史的な快挙だった。先行されたが、松島のトライなどで追いついた後がすごかった。三つ目のトライはラファエレがキックしたボールを福岡が驚くほどうまくつかみ、そのまま走ってトライ。後半四つ目のトライは、福岡が相手選手からボールをもぎ取り、そのまま独走した。こんなドラマチックなプレーは滅多にない。涙が出た。出身国は関係ない。チームとしての勝利が全て。これが日本の将来だ。
そしてノーサイド。敵味方(サイド)を隔てない(ノー)瞬間。紳士のスポーツと言われるわけだ。
今年のノーベル物理学賞に輝いたマイヨールとケローは、1995年に太陽系外の惑星を発見を報告した。2人が発見したのは、私たちの太陽系でいえば木星と同じようなガス惑星というタイプだった。これでは生命が存在できる可能性が低いが、その後は地球と同じ岩石惑星というタイプも次々と発見されている。
岩石惑星は長い年月をかけ、ラグビーボールのような岩がいくつもくっつき、スクラムを組んでいる。しかし、惑星がなぜ多様なのかは謎だ。惑星の人生もラグビーのようだ。
◆村山斉
むらやま・ひとし 1964年生まれ。専門は素粒子物理学。カリフォルニア大バークリー校教授。初代の東京大カブリ数物連携宇宙研究機構長を務めた。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル