外国人を「実習生」として雇う技能実習制度では、残業代が適切に支払われない事例があるなど様々な問題が起きた。米国務省が「人身取引」だと指摘するなど、海外からも批判されてきた。一方、米国では、滞在許可を持たない非正規移民が多く働き、中には人身取引とも言えるような形で国境を越えた人たちもいる。移民の研究をしている一橋大学の飯尾真貴子専任講師に聞いた。
――日本では農林水産業や製造業などの現場で、多くの外国人が働いています。米国でも中南米出身者が企業の経済活動を支えています。
「米国では現在1190万人にものぼる人々が、滞在許可のない非正規移民として暮らしています。その多くが様々な産業において低賃金労働者として働き、社会を根底で支えています」
――非正規移民は、日本ではいわゆる「不法滞在者」にあたると思います。米国では中南米からの移民が多いです。
「移民政策は意図しない帰結を生むと言われますが米国の事例は顕著です。現在の非正規移民の流れが作り出された背景には、第2次世界大戦中の米国で、労働力不足を補うことを目的とした米メキシコ間の協定(ブラセロ計画)があります。これにより500万人とも言われるメキシコ人が米国で働きました。1964年に米国の都合でこの二国間協定は廃止されたのですが、米国内での労働力需要が急になくなるわけではありません。メキシコ人は滞在許可がない状態で国境を行き来するようになりました」
「発見」された従順な低賃金労働者
「雇用主も非合法という形で雇用することが、実は使いやすく魅力的であることに気づいていきます。滞在許可がなく、従順に働く低賃金労働者を『発見』したともいえます」
「こうした非正規移民の流れが構造化されていきます。メキシコだけでなく中南米などの人々も加わり、60年近く経過してもこの流れが続いてきたといえます。『合法』でも『非合法』でも、やっている仕事は同じです。では、一体何か違うのか。それは、国家が恣意(しい)的に非合法移民というラベルを貼ることによって、低賃金かつ搾取に脆弱(ぜいじゃく)な労働力を作り出してきたということです」
「『不法移民』という言葉によって犯罪性と結び付けられ、社会の法的秩序を順守しない人々に対する批判として用いられてきました。歴史的な文脈や、国境を越える人の流れを生み出している構造的な側面を考えると、実は不法移民と呼ばれる存在は社会的に構築されたものといえるのです」
「86年になると米政府は、こうした非正規移民に一斉に市民権を与えるよう法律に定めました。同時に行われたのが国境管理の厳格化です。簡単に国境を越えることができないようにしたわけです」
――いまいる人は特例で認めるが、新しい移民は入れないという方針ですね。
「これまで国境を往来していた移民は、規制の厳格化によってリスクとコストが高まるため、米国に残った方がよいとなる。家族に会いに国に戻るのではなく、家族を呼び寄せるようになります。国境管理にも限界があり非正規移民はその後も増えていきました」
「非正規の人たちを正規化しようという政治的な機運は何度か高まりました。2001年の同時多発テロを契機として、90年代から進行していた規制の厳格化がより一層強まっていくことになりました。そして、皮肉にも、『変革(チェンジ)』を掲げて誕生したオバマ政権のもとで年間40万人にものぼる人々が強制送還されました」
――米国とメキシコの国境を通過させる請負人「コヨーテ」を取材したことがあります。多額の費用で密入国を請け負ったり、犯罪組織が関与したりするなど、人身取引とも言えるような例もありました。
「国境管理を厳しくして簡単に越えられなくすると、それまでは個々人による小規模な移住あっせんだったものが、徐々に組織化し大規模なものになっていきました。それが人身取引のような要素を強めてきたといえるでしょう」
米国務省は、日本の技能実習制度を「人身取引」と批判した。だが、その米国にも人身取引のような形で非正規移民が流入している。日本と米国の違いと、共通点はどこにあるのか。後半で詳しく聞いていきます。
「米国と大きく異なるのは…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル