住民グループはなぜ反対? 市はどう説明? 豊橋市の新アリーナ計画

 愛知県豊橋市中心部の豊橋公園に市が計画する多目的屋内施設(新アリーナ)をめぐり、反対する住民グループが計画の賛否を問う住民投票条例の制定をめざし、署名集めを始めている。住民グループは何を問題にし、市はどう説明しているのか。

《新アリーナ》 愛知県豊橋市が計画している収容5千人以上の多目的屋内施設。プロバスケットボールBリーグの試合会場や県の体育館のサテライト施設としても使われる見込みで、市は2027年度の開業をめざしている。民間資金も取り入れて整備する。市によると事業費は、新アリーナと豊橋公園東側の整備、30年間の維持管理費について最大で総額230億7千万円を見込む。ほかにアリーナ整備に伴う豊橋球場移設に用地購入費約13億円、整備費約23億円の総額約36億円がかかるという。

 新アリーナ計画は曲折をたどってきた。もともと、3期務めた佐原光一・前市長が進めていた。2020年11月の市長選で、豊橋公園内での整備計画を「白紙に戻す」としていた浅井由崇・現市長が当選。ところが、市は昨年5月、新アリーナの建設候補地として豊橋公園内を選んだと発表した。交通の便などを理由に挙げていた。

 計画に対し駐車場や交通アクセスなどに問題があるとして、昨年11月、今回と同じ住民グループが住民投票条例の制定をめざし署名活動を開始。必要な署名を集め、今年2月に直接請求をした。これを受け、市長は「制定する意義は見いだし難いと考えている」という意見をつけて条例案を提出し、市議会は議案を否決した。住民投票は実施されなかった。

 今度は5月末に市が、豊橋公園にある豊橋球場を三河湾に面する豊橋総合スポーツ公園(豊橋市神野新田町)の隣接地に移し、球場の跡地に新アリーナを整備する修正案を明らかにした。もともとアリーナを造るつもりだった豊橋公園内の別の場所は、一部が朝倉川の「家屋倒壊等氾濫(はんらん)想定区域」(県指定)に含まれていたためだと、市は説明した。

 さらに、別の防災上の問題が浮上する。豊橋総合スポーツ公園の隣接地は、南海トラフ地震が起きると高さ最大2~3メートルの津波が来て、液状化が想定される場所だった。これに対し市は7月の記者会見で、球場は盛り土の上に整備し、球場自体や近くの公共施設を津波避難ビルに指定するという対策案を明らかにした。

反対住民「命守る基本から逸脱」

 「野球場から一番近い総合体育館までは直線距離で1キロ程度。走って逃げることができる人もいるかもしれないが、多くの人たちは野球場の外へはなかなか出られない」。今月9日、豊橋市民文化会館で開かれた新アリーナ問題シンポジウムで、講師を務めた東三河くらしと自治研究所代表の宮入興一・愛知大学名誉教授は、そう指摘した。

 24日に署名活動を始めた住民グループの佐藤清純共同代表(74)は「野球場をあそこに移すなんて普通の自治体では考えられない。市民の安全や命を守ることが行政の基本。そこを逸脱することがまず絶対おかしい」と訴える。

 こうした指摘に市側は、どう説明するのか。

市側「盛り土して避難場所にも」

 多目的屋内施設整備推進室の大林均世室長は取材に「防災拠点としても使う新アリーナの整備位置はすでに見直した。津波が来る可能性がある球場の移設先には盛り土をして避難場所としても整備していく」と説明。球場の移設先については「地震が来たときに津波の恐れがあり、液状化の心配があるというのは承知していた。海側には耐震補強した堤防(高さ約6メートル)もあり、津波対策をしっかりやって整備を進めていく認識だった」。そのうえで大林室長は「事業者からの提案で具体的な話ができるようになれば、市民に情報を提供できる」と話した。

 市議会で過半数を占める自民党市議団の坂柳泰光団長は「市の活力に寄与する公共施設になり得るだろうと考え、推進をしている」として計画を容認する。ただ「誤解されている方や反対の方がいるのだったら行政側がしっかりと考え、今後の対策も含めて、市民に理解してもらう場をつくっていったらどうか」と注文をつける。

 市は10月中にも新アリーナと豊橋公園東側を整備する事業者の公募を始める意向だ。浅井市長は「進捗(しんちょく)に合わせて、市民の皆さまに様々な方法でお伝えしながら、安心・安全を第一に考え、事業を進めていく」と話している。

《住民投票条例の直接請求》 地方自治法の規定に基づき、有権者の50分の1以上の署名により、市民が市長に条例制定を直接請求できる。審査終了時点で有効な署名数に達していれば、市長は条例制定代表者が提出した住民投票条例案に意見をつけて議会に提出しなければならない。豊橋市の9月1日現在の選挙人名簿登録者数29万5945人を当てはめると、5919筆の署名で50分の1以上となる。

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 名古屋大学の福和伸夫名誉教授(地震工学)の話 多様な用途がある公共施設の整備には、施設に関わるステークホルダー(利害関係者)の人たちが丁寧に議論をしたうえで合意形成をしていくプロセスが重要だ。野球場を避難場所にすれば安全になるが、経路は津波で浸水する。避難する途中で、液状化や揺れの問題など別の困難がある。行政は、十分丁寧に住民に説明する必要がある。(戸村登)

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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