低賃金、長時間労働、人手不足……。保育の現場で、事件、事故が起きる度に問題の背景にあると指摘されています。
保育労働に詳しい中央大の小尾晴美助教(労働社会学)は、この20年で保育の質が下がり続けていると言います。保育現場はどうなっているか、話を聞きました。
――静岡県裾野市の保育園で起きた痛ましい虐待事件などが相次いで報じられています。どう見ていますか。
虐待事件が次々と明るみに出てきていますが、氷山の一角だと感じています。
送迎バスへの置き去り事故や虐待事件などが報道される中で、保護者や保育者の意識が敏感になって、表面化した部分もあると思います。今年、保育現場で事故や事件が急増したのではなく、これまでも傷ついてきた子どもがいた可能性が高いと考えています。
ゆとりのない環境、モラルとチームワーク保てず
――保育士の労働環境の問題が指摘されています。
事件、事故の背景を個別に分析しないといけませんし、安易に労働環境と結びつけることはできませんが、保育労働を20年のスパンで見ると、保育の質が下がる環境になっています。
保育の仕事は、子どもたちに生活の場、発達の場を保障する労働で、保育者の個々のモラルが子どもに作用します。
また、チームで保育目標を共有し、刻々と変化する子どもをつぶさに観察して、情報共有をし、連携することが重要な仕事です。心にゆとりを持ち、分からないことがあれば先輩からアドバイスを受けることが必要になりますが、それが難しい環境になりました。
――ゆとりがなくなった原因は何ですか?
2000年代に働き続ける女性が増えて、待機児童問題が起きました。この時、政府は当初、保育所の数を増やす解決を目指すのではなく、定員以上に子どもを受け入れ、職員への負担を増やしました。その結果、保育士同士で子どもについて話し合ったり、経験の少ない保育士を育てたりする職場環境は失われてしまったと思います。
保育士の配置、現場と乖離しているのに……
――何が原因か、詳しく教えてください。
まず、私立の認可保育園の場…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル