裁判所が刑事事件の被告の保釈を広く認める傾向を強める中、保釈中の被告による再犯が増えている。昨年は過去最多の258人で、10年余りで3倍に急増。中でも特に覚せい剤取締法違反が10倍近くと、目立って伸びている。再犯の恐れは保釈を判断する要件に入っていないが、識者からは再犯リスクの高い被告には慎重な判断を求める声が出ている。(市岡豊大、大竹直樹)
■「人質司法回避」
「今年に入り保釈中の被告の逃走が目立っているが、新たな被害者を生む保釈中の再犯は逃走より深刻な問題だ」。ある検察幹部は危機感をあらわにする。
最高裁によると、裁判所が保釈を許可する割合(保釈率)は、平成20年の14・4%から29年には31・3%と10年間で倍増した。契機は18年に当時の大阪地裁部総括判事が法律雑誌に発表した論文。それまで否認や黙秘を「証拠隠滅の恐れ」と判断し保釈請求を却下してきた傾向を戒めた内容で、さらに21年の短期集中審理の裁判員制度導入で、被告に十分な準備時間を確保する必要があるとして保釈を広く認める考えが定着したとされている。
こうした動きの背景にあるのが、容疑や起訴内容を否認すれば勾留が長期化する「人質司法」批判の回避だ。ベテラン裁判官は「人質司法を見直そうという大きな流れが司法制度改革と同時にできた」と語る。
一方、この10年余りで保釈中に別の事件で起訴される被告は急増した。犯罪白書などによると、昨年は258人で過去最多を更新。18年の80人から3倍以上になった。かつては窃盗が最も多かったが、28年以降は3年連続で覚せい剤取締法違反が最多となった。昨年は103人で、18年の11人から10倍近くとなっている。
実際、最近は覚醒剤(かくせいざい)絡みの再犯事件が目立つ。保釈中に実刑が確定し、横浜地検の収容を拒否して6月に4日間逃走した男は逃走中に覚醒剤を使用。覚せい剤取締法違反罪で保釈中だった暴力団組員の男は1月、東京・歌舞伎町で射殺事件を起こし、拳銃を持ったまま逃走。逮捕までに約半年を要し、関係者によると、この間も覚醒剤を使用していた疑いがあるという。
■裁判官の裁量
ただ、刑事訴訟法は被告側から保釈請求があった場合、原則として認めなければならないと規定している。実刑相当の罪を犯した場合や常習犯、「証拠隠滅の恐れ」があるケースは例外だが、その場合でも「逃亡の恐れ」の程度などを考慮して裁判官の裁量で保釈を認めることができる。「再犯の恐れ」は保釈を認めない例外要件に入っていない。このため検察側は再犯の恐れが見込まれる場合、苦肉の策として、常習性につながる証拠があれば、最大限この部分を主張して保釈に反対するのだという。ある検察幹部は「国民が再犯の被害に遭わないためにも『再犯の恐れ』も当然考慮されるべきではないか」と訴える。
これに対し元東京高裁部総括判事の門野博弁護士は「『再犯の恐れ』がないことを要件に入れると、保釈の運用が硬直化し、人質司法といわれた時代に逆戻りする可能性もある。逃走が相次いだからといって保釈要件を見直すのはいかがなものか」と指摘する。
だが、ある検察関係者は「条文に書いていないからといって再犯の恐れを考慮しなくていいと考えているなら問題だ」と批判し「極端な話、『私は保釈されたら人を殺します』と話す被告も保釈されていいことになる」との見方を示す。
ある警察関係者も「再犯の恐れがある被告は逃走する恐れもあると考えるのが常識的判断。逃走の恐れを考える際の材料ととらえるべきだ」と強調する。常磐大の諸沢英道元学長(刑事法)は「近年は裁判官がどこまで被告の事情を把握して保釈を判断しているのか疑問だ。社会の安全のため『再犯の恐れ』がないことを保釈の要件に明文化することを検討すべきではないか」と話した。
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■再保釈中、被害弁済できず窃盗も
保釈中に1審で実刑判決を受けて収容され、控訴した後に再び保釈される「再保釈」も増えている。再保釈は実刑判決によって逃亡の恐れが高まるとされているが、捜査関係者からは「再犯も目立つ」との指摘もある。
今年9月までに、特殊詐欺の電話をかけ計約1450万円を詐取したとして詐欺罪で起訴された29歳の男も再保釈中だった。
捜査関係者によると、男は平成29年にも特殊詐欺で複数の高齢者から計約2350万円を詐取したとして逮捕、起訴され、今年3月に最初の詐欺罪で実刑が確定したが、収容されないまま7月、再び詐欺に関わったとして逮捕された。
今年8月、訪問介護先の女性のキャッシュカードで現金計124万円を引き出したとして、東京地検に窃盗罪で起訴された57歳の女も、28年に勤務先の老人ホーム入所者を狙った窃盗罪で起訴され、再保釈中だった。最高裁で実刑判決が確定し、収容されるまでに新たな事件を起こしていた。
最初の事件の被害総額は約2千万円。関係者によると、女は被害弁済できず、再保釈中に盗んだとされる現金を充てていたという。捜査関係者は「被害が多額で、弁済の見込みがない実刑相当の被告を保釈するとは考えられない」と話す。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース