倫理
前年までの路線に試行調査型の問題形式の一部などを取り入れた出題であった。写真と絵画資料が消えて原典資料が増加し、文章読解力重視にシフトした。
―概評―
レイアウト面での変化として、例えば、試行調査にのみ見られた「黒板」のイラストを用いた出題があったが、これは視覚的な工夫の一つにすぎず、難易度や時間配分に影響はない。グラフは前年に引き続き、従来多くみられる意識調査が出題された。各大問のコンセプトも変わらず高校生がテーマの認識を深めるもので、全体を通して読解力が求められた。
【大問数・設問数・解答数】
・4で前年から変更はない。
・33で前年から変更はない。
・33で前年から変更はない。
【問題量】
・原典資料が12で前年から四つ増加、図版はグラフ一つとオリジナルの図一つで二つ収録され、前年より三つ減少した。資料読解問題や会話文は、前年と同じくらい多かった。
【出題分野・出題内容】
・第1問(東西源流思想)、第2問(日本思想)、第3問(西洋近現代思想)、第4問(現代社会・青年期・心理学など)と、前年改められた問題編成と同じ出題であった。
・第1問に原典資料が六つと多かった。
・グラフ問題は前年に引き続き意識調査の考察問題であるが、グラフの調査年は2013年とやや古いものであった。
・テーマは「正義」「問い」「自由」「格差社会における運と努力」であり、おおむね典型的な出題。
・第4問では「格差社会における運と努力」を扱う中で、「マシュマロ実験」と呼ばれる子どもの社会的成功に関する追跡実験の結果とその因果関係の真偽に関する考察も出題された。
・三木清の『読書と人生』や、シェリングの『人間的自由の本質』などが資料として登場した。ほか、サリヴァンやラファエロに関する問題など、厳密に各記述の内容を検討すると、受験生には解きにくいであろう出題も見られた。また、「自由」についてまとめたオリジナルのスライド資料が登場した。オーソドックスな思想家からの出題が多かった。
【出題形式】
・形式面では、前年の路線を踏襲しつつ一部に試行調査型の問題が取り入れられたほか、写真や絵画は見られなくなった。また、選択肢が九つある設問や、空欄がaからdまで四つある設問などがみられたのは珍しかった。
―難易度(全体)―
過剰に読解要素のある問題が散見される上、2ページの問題を解く際にページをめくる必要があるなど、時間を要するつくりとなっている。また、単純な2行の4択問題も、内容が細かく、受験生には最終的な正誤を確定させられないものが目立つ。よって全体の難易度はやや難化。
―設問別分析―
第1問
・さまざまな「正義」の考え方(東西源流思想) 難易度:やや難
さまざまな「正義」の考え方をテーマとした、東西源流思想分野からの出題。問1は正しいとされる事柄についての地域横断的な出題。問2は様々な宗教・思想のあり方についての出題でジャイナ教やパリサイ派などやや細かい内容。問3はイスラームに関する出題で、『クルアーン』から抜粋した文章の標準的な読解問題。問4は「共存」や「共生」をめぐる様々な宗教や思想からの出題。問5は『スッタニパータ』『新約聖書』を用いた9択の読解問題。問6は『荀子』を用いた標準的な読解問題。問7は、プラトン『国家』に収録されたソフィストの主張とキケロの『義務について』を用いた標準的な空欄補充問題。問8は正義に関する会話の標準的な空欄補充であり、文脈を読む力が必要。
第2問
・小問Ⅰ 「問い」について(日本思想その1) 難易度:やや難
・小問Ⅱ 「問い」について(日本思想その2) 難易度:標準
・小問Ⅲ 「問い」について(日本思想その3) 難易度:やや難
「問い」をテーマとした日本思想史分野からの出題。問1は最澄と空也を扱った標準的な知識問題。問2は日本の神々についてのやや細かい出題。問3は黒板のイラストを用いた出題で、文脈に沿って解ける部分は平易であるが、法然と一遍の区別は難。問4は伊藤仁斎の「仁」に関する易しい読解問題。問5は吉田松陰の『講孟余話』を用いた読解問題で、吉田松陰の思想について扱われることは珍しいが、消去法で解答可能。問6は明六社の一員に関する知識問題で、西村茂樹など頻出ではない人物について扱われ、やや難。問7は西田幾多郎の哲学に関する踏み込んだ問題であり、難。問8はやや長い生徒の日記と三木清の『読書と人生』を両方読む必要があり、内容は難しくないが読解量が多くなっている。
第3問
・小問Ⅰ 自由について(西洋近現代思想その1) 難易度:標準
・小問Ⅱ 自由について(西洋近現代思想その2) 難易度:標準
ⅠとⅡで会話は区分されているが、テーマは一貫している。問1はルネサンスに関する出題であるが、ラファエロがメディチ家の庇護(ひご)を受けていたかどうかなど、普段はあまり出題されない細かい内容が見られた。問2はアダム・スミスに関する標準的な出題。問3は規範や法を考察した思想家についての標準的な出題。問4はカントに関してまとめた「読書ノート」を使った問題で、基本的な内容。問5はパスカルの『パンセ』に関する読解問題であり、標準~やや難。問6は、レヴィナスの思想についての基本的な知識問題。問7は会話文とシェリングの『人間的自由の本質』を両方読んで答える問題で、難易度は標準的。問8は、全体のまとめとしてのレポートの空欄補充問題。それほど難しいわけではないが、ここまでに把握、読解する分量を考えると、骨が折れるだろう。
第4問
・社会的格差における運と努力 難易度:やや難
社会的格差における運と努力をテーマにした、引き続き読解量の多い大問。問1は現代の家族に関する語句を問うやや細かい知識問題。問2は個人の自立を論じた人物をそれぞれ特定する標準的な問題。問3は「マシュマロ実験」を扱った易しい資料読解問題。問4は貧富の差に関わる思想や問題についての標準的な正誤問題だが、「倫理」の教科書で学ぶ知識というよりは、社会的な教養も求められた。問5は文化や宗教に関する知識問題で、文化相対主義について高校での茶道教育を例にとるなどやや応用的だが、難易度は高くない。問6は、ロールズの『正義論』に関する資料読解問題で、読解量は多めだが、内容は易しめ。問7は努力に関する二つのグラフをもとにした会話文の空欄補充問題で、難易度は標準的。問8はボードリヤールなど、受験生にとっては盲点的になりやすい20世紀の思想家に関する問題であり、内容も難。問9は長い会話文のaからdまでが空欄になっている珍しいパターンの問題であり、選択肢の文章も長く、手がかりもややこしいので、解きにくかったと思われる。(代々木ゼミナール提供)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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