ファンの夢を乗せて走る競走馬。引退後、セカンドキャリアを歩めるのは一握りで、行方がわからなくなる馬も多い。息子とともに引受先のない引退馬を預かる牧場を立ち上げた元タカラジェンヌの岩崎美由紀さんに思いを聞いた。
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――競馬に携わるようになった経緯を教えてください。
「夫が亡くなり、2015年に夫が経営していた競走馬の牧場を引き継ぎました。もともとは、競走馬の生産と育成をしていたのですが、経営状況がとても厳しくて、生産一本に絞って再出発しました」
「それまでは、牧場に行っても馬たちにニンジンをあげるくらいで、競馬のことは全然知りませんでした。だから、経営を始めた頃はわからないことばかりでした」
――馬には興味があったのですか。
「もともと大好きでした。子どもの頃から写生で馬の絵を描いたり、引き馬に乗ったり。息子に乗馬もさせていました。あんなに大きな動物ですが、目に通じ合うものがあって、癒やされますよね」
――生産者として馬と一緒に過ごすようになり苦労もあったのではないでしょうか。
「出産のときが一番気をつかいますね。すんなり生まれる子だけではなく、逆子でなかなか出てこられない子もいる。出産時に親子が亡くなってしまうという経験もしました。生まれても、初乳を飲んで1~2カ月は小さくて弱い。本当に手がかかるのですが、その半面、とてもいとおしいんですよね」
引退後、役目があるのは一握り
――ご自身のキャリアと重ね合わせる部分はありますか。
「私も宝塚歌劇団にいたとき、つらいこと、やらないといけないこと、色々ありました。でも、舞台に出て、お客様の拍手をもらったり、喜んでくださったりするとそういうものが全部すっとぶんですよね。競走馬も頑張って走って、みんなを喜ばせてきたんだと思うと同じだなと感じるところはあります」
――現役を引退した馬について考えるようになったのはいつごろですか。
「息子も馬が大好きで、牧場の経営を始めた頃から『引退して行き先のない馬はどこに行くのだろう』とか『引退馬が暮らせる牧場ができたらいいね』と話していました。ここで生まれた子たちを見てなおさら、最後まで面倒をみたいという気持ちは強まりました。生産牧場の経営に少し余裕が出たあと、息子が引退馬のための養老部門を立ち上げました」
「競走馬の寿命は25~30年です。現役の競走馬でいられる期間は短い。引退後に競走馬の親となる種牡馬(しゅぼば)や繁殖牝馬(ひんば)になったり、乗馬に転用されたりするのはほんの一握りなんです」
――役目を終えた馬を養うのは難しいのでしょうか。
「飼料も必要ですし、馬が寝起きする馬房も用意して、手入れもするとなると、やはり費用がかかる。預託料をもらうのならいいですが、自分たちだけで面倒をみるとなると、なかなか難しいです。周囲からは『割に合わないからやめたほうがいい』とか『馬は経済動物だから』と言われたこともあります」
まともに歩けず、唇からはよだれ きっかけの名馬
――本格的に引退馬の牧場を始めたきっかけは。
「ローズキングダムという馬…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル