建設業の受注実態を表す国の基幹統計を国土交通省が書き換えていた問題。この不正はなぜ起きたのか。元厚生労働省官僚で、朝日新聞デジタル「コメントプラス」のコメンテーターを務める千正康裕さんは「霞が関の組織構造を改めないと、同じようなことはこれからも続くだろう」と問いかけます。役人の心理を熟知する元官僚と、取材班の伊藤嘉孝記者が問題の舞台裏を語り合いました。
――書き換え問題を報じた記事に、千正さんが寄せたコメントへの反応が大きかったんです。コメンテーターをされていかがですか?
千正:最初はね、僕も試行錯誤だった。コメントプラスに投稿したコメントがたくさん読まれ、さらにツイッターで一般の方から寄せられるフィードバックを非常に楽しんでいます。
――それもメディアの新しい展開ですね。今回は国交省の書き換えについて。そもそもこの問題、どうやってつかんだのですか?
伊藤:取材の端緒は、残念ながら秘密です。時期も明確には言いにくいですが、昨年の夏ごろから社会部の調査報道班が取材をしていました。
――取材のこぼれ話は?
伊藤:非常に複雑な話で、我々も正直よく分からないというところからスタートしました。都道府県に書き換えをさせていたということで、自治体に手当たり次第聞きました。業者から出てきた生データは、鉛筆で書かれたものなんですけども、これを消しゴムで消す。消したら生のデータがどこにも無くなってしまう。それを聞いた我々は、あぜんとしました。
――やっている人の反応は?
伊藤:都道府県は、国が集計する統計のお手伝いをする立場。このように書き換えてくださいと指示を与えられていたので、「我々は国に言われた通りにしかやるしかない」と回答する方もいました。
――消しゴムで消すとか、今時そんなことをしているのと思うのですが、千正さんは想像できますか。
千正:いかにも起こるよな、と思いました。僕は20年ぐらい前に霞が関に入った。統計に限らず、過去から綿々と続いている役所の仕事はおかしいことがいっぱいある。昭和の時代だったら世の中全体がゆるかったから、このくらいでいいんじゃないか、という処理をしていることは結構ある。(そうした問題を)ずっと直してくる歴史を僕は役人として生きてきました。
――昭和の遺物、バグを直す作業ですね。
千正:統計法が改正されて、統計の重要性は上がりました。いい加減な取り扱いが世の中的に許されなくなってきています。それをどこかで直すべきだった。なぜ直せなかったのか、役所の構造を知っている人間としては、いろいろと思うことがあります。
――国交省は組織として自浄作用が働かなかったのですか。
千正:「いい加減なことをしていた」「指摘されても直さなかった」。その通りだが、それだけ聞くと「悪い人たち」だと思うじゃないですか。でも、「いい人」であったとしても、これ悩むなあと思う。2018年末に発覚した厚労省の「毎月勤労統計」の不適切調査をめぐる問題でも、国会やメディアで取り上げられ、普段淡々と統計をやっていた部署の業務量が跳ね上がった。国会答弁の作成など、チーム全員が毎日徹夜。それでは組織が崩壊します。(聞き手=編集委員・秋山訓子)
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル