サッカー元日本代表FWで、現在、J1から五つ下のカテゴリーにあたる地域リーグ・沖縄SV(エスファウ)の選手兼監督兼代表を務める高原直泰(43)。往年のストライカーはいま、沖縄に渡り、サッカーと並んでコーヒーの栽培に取り組んでいる。大企業や自治体との連係プレーによって、コーヒーを沖縄の新たな特産物に育てるのが目標という。それにしても、なぜコーヒーなのか。サッカーとの関係は。その狙いを聞いた。
――そもそもなぜ沖縄に?
「国の出先機関から沖縄のスポーツ産業の『モデルケースになってほしい』と誘われた。『面白い話だな』と思った」
「若い頃は純粋に日本人のFWとして海外で勝負したいと思った。でも、35歳ぐらいになって選手生活の終わりを考えたとき、サッカー界に受けてきた恩をどうすれば返せるかを考えた。そのタイミングで話をもらった」
――ゼロからの立ち上げだった。
「やるからにはとことんやる覚悟で行かないとダメだと思った。本土のマンションを売って、生活必需品だけ持って移り住んだ」
「外車も売った。練習に必要な道具も自分で買って、それを運ぶのも自分なので、大型ワゴンに乗り換えた。沖縄に来て最初の3年間は基本的に(資金は)持ち出しだった」
――失敗するのではという懸念は?
「撤退は一切考えなかった。うまくいかないなら、それは自分が中途半端な仕事をしているってことだから。別に悪いことをしようとしているわけでもないし(笑)」
――コーヒー栽培の現状は?
「2カ所のクラブ直営農場と7軒の協力農家など計11カ所で栽培している。木は全部で約6500本。今年の11月から来年3月にかけての収穫を見込んでいる。5千杯ぐらいは飲める収穫量をめざしている」
――コーヒー栽培の難しさは?
「一番は台風による強風だ。苗木が倒されたり、葉が根こそぎ持っていかれたり。あと、沖縄特有の事情として強い日差しによる葉焼けで、葉が黄色くなってしまう」
自分たちで稼ぎ、地域の課題も解決
――サッカークラブがコーヒーを栽培することの意味は?
「そこはいつも(取材相手に)修正するところ。SVはサッカークラブじゃない、スポーツクラブなんだ、と。何となく(元日本代表FWが率いるチームが)Jリーグをめざしてやっていきますというのでは、俺がクラブ経営をやる意味はない」
――農業への挑戦は地域貢献の一環?
「当然それもあるが、クラブ経営ってボランティアの感覚でやっても持続できない。自分たちでしっかり稼いで、なおかつ地域の課題を解決できるものって何かなって考えたときに出会ったのが農業だ」
――コーヒーに着目したのは?
「コーヒーは赤道を挟んだ南緯25度から北緯25度の『コーヒーベルト』が産地で、沖縄本島は北緯26度に位置する。沖縄でもコーヒーを作っている人がいるらしいと聞いたので、ハワイのコナコーヒーのような特産物になったら面白そうだなと思った」
パス出した相手は往年の・・・
――そこで協力を求めたのが、以前所属していたJ1ジュビロ磐田で当時メインスポンサーを務めていた企業だった。
「栽培のノウハウはないので、とてもじゃないが自分たちだけではできない。やっぱりコーヒーと言えばネスレ日本さんしかないなと思って、話を聞いてもらった」
――沖縄に根付けるか?
「コーヒー栽培は10年、20年単位の長いスパンで考えないといけない。その作業を続けることが、サッカー以外の競技やコーヒー以外の農作物の栽培など、クラブの裾野を広げる力になる」(敬称略)(聞き手・金子智彦)
たかはら・なおひろ 1979年6月4日、静岡県三島市生まれ。清水東高から98年ジュビロ磐田入団。2001年途中からボカ・ジュニアーズ(アルゼンチン)へ期限付き移籍。02年、復帰した磐田でJ1制覇に貢献し、J1得点王、最優秀選手、ベストイレブンに選ばれた。ドイツ1部ハンブルガーSVなどでもプレーした。06年ワールドカップドイツ大会代表。国際Aマッチ57試合出場23得点。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル