元警部銃撃知っていたら「バカなことやめろと止める」

 四つの市民襲撃事件で殺人罪などに問われた特定危険指定暴力団工藤会の最高幹部2人の第55回公判が20日、福岡地裁で開かれた。この日は福岡県警元警部が銃撃された事件の被告人質問があり、工藤会ナンバー2で会長の田上不美夫被告(64)は、襲撃について「知っていたら『バカなことはやめろ』と止めている」と、関与を否定した。

 事件は2012年4月、北九州市で発生。工藤会捜査を担当していた元警部が路上で足などを撃たれた。検察側は、工藤会トップで総裁の野村悟被告(73)が元警部の言動に不快感を抱き、田上被告と襲撃を決めたとみている。

 田上被告は「元警察官を銃撃すれば警察が一丸となって工藤会をたたくことはわかる。私はそれほど愚かではない」と述べ、事件の指示や計画の了承について否定した。

 「(元警部を)許さん」と別の警察官に語ったとする証言については、田上被告は「何十年もいい関係だったので、何とも思っていない」と否定した。家宅捜索を受け、元警部に電話で「わしの家の中をめちゃくちゃにしてくれたらしいやないか」と抗議したとする証言については、「ぐちゃぐちゃにされることはなかった。いつも紳士的にしてくれていた」と述べた。

 一方で、公判での元警部の証言を聞き、「いままで悪い感情はなかったが、うそばかりよう言えるなと思った」とも語った。

 田上被告は、工藤会の前身である工藤連合草野一家傘下の田中組若頭だった1991年ごろ、元警部とあいさつや世間話をする間柄になったと証言した。元警部から、捜査中の組員に出頭するよう説得を頼まれたこともあったと述べた。

【田上被告への被告人質問の主なやりとり】

●事件への関与

――事件に関与しているか

 一切関与していません。

――誰かに襲撃を指示したことは

 していません。

――野村被告から指示されていないか

 指示されていません。

――「工藤会の組員が元警察官を拳銃で襲撃すれば、工藤会全体に重大な影響を与えることは明らか」との検察の指摘をどう思うか

 私もその通りだと思います。

――田上被告の指示がなければ、元警部を拳銃で襲撃する事件は起きることはないと検察は主張している

 まったく逆だと思います。退職していても元警察官を襲撃すれば、警察は工藤会を一丸となってたたくと思います。そういうことがわかっていてするほど、私は愚かでもないし、バカでもありません。

――工藤会の組員が元警部を拳銃で襲撃しようとしていることを事前に知っていたか

 いえ、知りません。

――もし計画を事前に知っていたら

 そんなバカなことはやめろと止めています。

――工藤会は、現職の警察官は襲撃しないが退職した後に襲撃すると言う人がいる

 そんなことはまったくありません。

――事件は誰が計画して指示したか分かるか

 分かりません。

――誰かは分からないが、拳銃で元警部の襲撃を計画し指示したことをどう思うか

 思慮が浅いとしか言いようがありませんね。

●市民襲撃について

――事件にはたくさんの組員が関わった。工藤会として処分する必要はないのか

 家族みたいな組織ですから、なんぼ堅気に迷惑かけるなと言うても法で裁かれる人間はおるわけですね。

――定例会で、田上被告が堅気に迷惑をかけてはいけないと言っていたとの証言がある

 私自身はいけないと思う。ずっと言っていました。

――それは会の決まりではないのか

 いえ、違います。私の個人の意見です。

――堅気に迷惑をかけたらどうするのか

 捕まって(刑期を)務めて帰ってきて戻りたいと言えば引き取ります。

●元警部との関係

――いつごろ知り合ったのか

 (傘下組織の)3代目田中組若頭を拝命した時期です。平成2(1990)年か3(91)年のころです。

――どういう時に顔を合わせていたのか

 毎月10日にある工藤会館での定例会の時に顔を合わせることがありました。会館と道路を挟んで歩道があって、そこに10~20人くらいの警察官がいて、元警部の所に行ってあいさつしていました。

――元警部は情報収集に来ていた

 はい。

――頼まれごとをされることもあったのか

 逮捕状が出ている組員の行方が分からん時には、組員を出頭させてもらえんだろうかと言われました。

――退職後に会ったことは

 ありません。

――元警部に対しては今はどういう気持ちか

 悪い感情はありませんでしたが、この間の裁判でうそばっかりよう言えるなと思いました。警察の一員として、組織の一員としてというのはあったんでしょうが、言わんでもと思った。

●工藤会の組織について

――総裁とはどのような立場なのか

 世間一般で言えば隠居です。

――総裁の野村被告には実権はないのか

 ありません。

――序列は野村被告と田上被告はどちらが上になるのか

 形式的には総裁が上になります。

――野村被告から運営について口出しされることはあったか

 いいえ、そんなことされたらやっておられませんから。

――どういう意味か

 隠居していて口出しされたら、私は会長としてやっておられんということです。

●「許さん」という発言について

――元警部を「許さん」と言ったことは

 ありません。ずっと何十年も良い関係だったので、どうのこうの思っとったというのはありませんでしたから。

――元警部について田上被告が「あいつは俺のことを嫌うとるらしいが、俺もあいつのことは好かん」と言っていたとの証言がある

 それはないと思います。私たちの付き合いを見ていればわかると思うし、それは作り話だと思います。

●家宅捜索について

――2010年に自宅に家宅捜索が入ったことは覚えていますか

 聞きました。東京の方に行っていて、北九州を不在にしていました。

――家宅捜索を指揮していたのは

 元警部でした。

――立会人は誰だった

 工藤会の何人かと、家内だったと思います。

――家宅捜索で、警察官に家の中をめちゃくちゃにされたとか、引き出しをひっくり返されたとかいうことを聞いたか

 いいえ。何回も家宅捜索されていますが、そんなぐちゃぐちゃにされたとかいうことはありません。言い方を変えれば、紳士的にいつもしてくれていました。

――田上被告が元警部に電話して「家の中めちゃくちゃにして」「引き出しもひっくり返して」とか言ったことは

 いいえ、ありません。私が東京に行っているとき、工藤会の幹部から電話があって「今日、ガサが入っています」と連絡があった。でも、元警部に「会長(田上被告)がいるときにしてくれ」と頼んでくれたんです。そしたら元警部は「分かった。明日にするから」と引き上げてくれたらしいんです。でも、元警部は上司から「なん生ぬるいことしよんか。はしごかけてでも今日せえ」と言われたみたいです。

――東京からその日のうちに戻って来て、元警部に電話をしたか

 元警部は私のことを考えてくれて、次の日でもいいと引き上げてくれた。「ありがとう」と伝えました。

――自宅を家宅捜索されたことをどう思ったか

 自宅は配慮はしてほしいと思った。妻は私の妻だから仕方ないですが、子どもなんかには配慮してほしかった。昔は配慮してくれた人もいた。子どものおる前で歯がゆかった。


Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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