映画を活用した地方創生が盛んだ。日本遺産に認定された大阪府河内長野市では地域の魅力発信に向け、新作映画の撮影が6月から本格スタート。昨年秋には西日本豪雨で被災した広島県内でロケを行った作品が公開され、人々が足を運ぶ力となるなど、「地方創生ムービー」の動きは着実に広がっている。(藤崎真生)
■歴史のまち魅力発信へ
6月から本格撮影が始まったのが、大阪府河内長野市を含む奥河内地域でロケを行う「鬼ガール!!」。府内出身で、NHK連続テレビ小説「べっぴんさん」にも主人公の長女役で出演していた井頭愛海(いがしら・まなみ)さん(18)が主演を務める。
撮影の主な舞台となる河内長野市は、ベッドタウンであると同時に南北朝時代の武将・楠木正成が少年時代に学んだ観心寺を抱えるなど「歴史と文化のまち」としての顔も。これらの資源を生かし、今年5月「中世に出逢えるまち」として日本遺産に認定された。
作品では「鬼族の末裔(まつえい)」である女子高校生が、部活を通じて「なりたい自分は何か」を探し求める姿を描くという。撮影は観心寺や隣接する大阪府唯一の村・千早赤阪村などで行う。
メガホンを取るのは映画「逆転裁判」(平成24年)の助監督などを務めた瀧川元気さん(33)。同市出身の瀧川さんは「いいところだけではなく、人口が減っているなど問題点を映し出し、まちづくりとは何かを考え直してもらえる内容にしたい」と話す。
■被災地に光当てた映画
「酒都」として知られる西条地区を抱える広島県東広島市を中心に撮影されたのが、昨年10月公開の「恋のしずく」(瀬木直貴監督)だ。AKB48の元メンバー、川栄李奈さん(24)の初主演作で、農大生の主人公が酒造りに触れ、恋に目覚めるという内容で物語は進む。
市などでつくる「応援する会」が支援して制作が進む中、西日本豪雨が起こったのは昨夏。東広島市では関連死を含め19人が犠牲となり、ロケ地のひとつ、同市安芸津町の「柄(つか)酒造」も泥水の流入で機械類がほぼ全滅という被害に遭った。
同社は約170年の歴史を持つ老舗だが、社長の柄宣行さん(64)は一時、再開を諦めそうになったことも。しかし、瀬木監督ら約30人が駆けつけて土砂を撤去するなどし、元に戻りゆく酒蔵を目にした柄さんは、復旧を決めた。
困難を越えて公開された作品は地域に活力を与えた。「応援する会」によると、豪雨が発生した30年7月に西条地区を訪れた観光客数は約2千人と前年同月の半分だったが、映画が公開された30年10月は約6300人にまで回復。現地では「映画を見て訪れたくなった」との声も上がったという。
再び酒づくりに取り組む柄さんは「私自身、前を向いて酒をつくることが恩返しになる」と語った。
■映画が地域イメージ作る
「鬼ガール!!」のゼネラルプロデューサーで大阪府議の西野修平さん(46)は「映画制作を一過性のイベントにしてはいけない」と強調。公開後は劇中で登場する「映画祭」を実際に行ったり、菓子や酒類を販売するなど映画を契機に地域活性化へつなげるという。
近畿大経営学部の高橋一夫教授(観光マーケティング)によると、映画を活用して地域ブランドを構築した代表的事例は「ローマの休日」だという。オードリー・ヘプバーン主演の同映画は、イタリア旅行のブームを作り、第二次世界大戦で敗戦国となった同国の戦災復興の旗頭になった。
高橋教授は「映画は物語とともに地域のイメージを届ける。見る側は舞台を忘れることはないため、地域のイメージをつくるうえで強力だ」と話している。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース