「失敗学」の提唱者で、東京電力福島第一原発など数々の事故の調査や検証に携わった東京大学名誉教授(機械工学)の畑村洋太郎さん(80)は2年前の4月、自動車の運転をやめました。来年の更新時に免許も返納します。運転に自信があった畑村さんが心変わりした一言とは? 大きな社会問題になっている高齢者の免許返納をどう考えたらよいのか? 畑村さんに話を聞きました。
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――自動車の運転をやめると、よく決断されましたね。
あれは2019年4月19日、そう、東京・池袋で87歳の男性が運転する自動車が暴走し、横断歩道を横断中の母娘2人が亡くなった日です。その夜、家内と娘が私を取り囲みました。
妻が言います。
「あなた、そろそろ車の運転をやめたらどうでしょうか」
最初は穏やかな会話だったのですが、私が渋っていると、だんだんと真剣さが増し、説得口調になっていきました。
妻はたたみかけてきます。
「あなたが取り組んできた失敗学は、現状認識が一番大事なのですよね」
「的確な現状認識に基づき、失敗を未然に防止するのが失敗学の基本ですよね」
「あなたが関わった日本航空123便の事故も福島第一原発事故も、いくつも未然に防ぐチャンスがあったのに、それが見逃されたんですよね」
そして最後に、娘がこう付け加えました。
妻と娘に迫られ、車の運転から「降参」した畑村さんは、「失敗」の事例を検証してきたのに、自分のことは決断できなかったと話します。後半では、畑村さんが感じた自身の「老い」や、免許返納の問題に必要な視点について語ります。
「もし、事故を起こしたら…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル