昨年10月、在オーストリア日本大使館が両国友好150周年事業の展覧会「ジャパン・アンリミテッド」の認定を取り消したことが物議をかもした。「友好を促進するとの要件に合致しない」とされた作品群の一つが、美術家・会田誠さんの映像作品、通称「首相ビデオ」だ。ツイッターなどの一部で「反日的」と批判されたことを、どう思っているのか。著書やツイッターで批判的な姿勢を示していた東京五輪の関連行事である文化プログラムに、なぜ作品を出す気になったのか。芸術作品が国を背負わされてきた歴史にどう向き合うのか。「滝の絵」「灰色の山」などで知られる美術家に、ロングインタビューした。
「首相ビデオ」騒動、何だった
――「国際会議で演説をする日本の総理大臣と名乗る男のビデオ」は、架空の首相に扮した会田さんが鎖国を訴える映像作品です。日本大使館の認定取り消しは異例で、会田さんの作品を含む展覧会の作品群は、自民党内でも問題視する声が出ていたと報道されました。
拡大する「The video of a man calling himself Japan’s Prime Minister making a speech at an international assembly」2014年=シングルチャンネル・デジタルビデオ(26分07秒) (C)AIDA Makoto、Courtesy Mizuma Art Gallery
「ウィーンでも、(平和の少女像などを含む企画展が開会後に中断された)あいちトリエンナーレでも、専門家が決めたことに後から素人の政治家が口出しした。『首相ビデオ』に関して言えば、保守派の人は喜びこそすれ、怒るような内容では全然なかった。作品を見もせず、僕のこともちゃんと知ろうともしない人が外務省に『通報』して、認定が取り消された」
「取り消しによって僕にも展覧会側にも何もデメリットはなかった。デメリットがあるとしたら、この事実が世界に知られてしまったことによる、文化国家としての日本の評判の低下ですよね。この件で『会田誠=反日アーティスト』というレッテルが頭にこびりついたままの人はいるだろうけど、僕の表現のお客さんではありませんから」
あいだ・まこと 1965年、新潟市生まれ。東京芸術大学大学院美術研究科修了。93年に「巨大フジ隊員VS.キングギドラ」を発表し、本格的な作家活動を開始。「天才でごめんなさい」(2012年)「GROUND NO PLAN」(18年)など個展多数。絵画のほか立体、パフォーマンス、エッセー、都市計画など、多様な表現を国内外で展開する。
――会田さんの作品はナンセンスだったり露悪的だったり。トリックスターを演じることで、特定のイデオロギーを背負わされることを避けてきた印象があります。
「イデオロギーや政治的メッセージを作品に込めるのはありだと思うけど、僕個人はツイッターなど、作品とは別の所でやることにしている。言葉を使った方が明確に伝わる事柄は、わざわざ作品としてつくりたいものではないので。美術は即戦力にはならない代わりに、作品が残れば自分の死後にでも延長戦を期待できる。だから、今の政権や社会状況みたいに後で変わるようなことを美術で言うのは、違うんじゃないかなと」
「あとは僕の個人的な芸術の定義として、中ぶらりんのジレンマ状態で、にっちもさっちも行かず固まっちゃったようなときに、『ああ、作品ができたな』っていう思いがある。『首相ビデオ』はその点、そこそこ成功してると思っているんですけれど」
批判的だった五輪、作品なぜ提供
――今夏、東京五輪・パラリンピック関連の文化プログラム「パビリオン・トウキョウ2020」で、国立競技場周辺に「東京城(仮題)」を制作しますね。
「道路脇にドンドンと二つ。段…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル