今年度の最低賃金の改定で全国最低になった岩手県。下位の県は「全国最低の最低賃金」を避けようとするため、結果的にほとんど横並びになることが多いという。今回、単独での最下位となる額を答申した丸山仁・岩手地方最低賃金審議会長は、なぜあえてこの決断をしたのか。
最低賃金の最下位は毎年めまぐるしく変わる。国の審議会は全国の最低賃金をA、B、Cの三つにランク分けしており、最下位を争うのはCランクに分類されている県だ。東北、九州地方の県が多い。
ただ、Cランクの複数の県が同額で最下位に並んだり、1円高いだけの「下から2番目」に多くの県が並んだりして、ここ5年、Cランクに分類される県のほとんどが最下位付近にほぼ横並びになっていた。しかし、今回、岩手県は下から2番目に低い沖縄県より3円低い単独の最下位になった。
最下位が単独になるのは2018年度の鹿児島県以来で、下から2番目の県との差額が3円以上開いたのは19年度以来だ。
単独の最下位は2018年度以来
都道府県ごとの金額は、どうやって決まるのか。
まず政府の審議会で、目安が示される。そのうえで、各地の地方審議会がそれぞれに地域の実情に応じて議論して決める。この審議会は、公労使の三者で話し合われる。政治学が専門で、岩手大教授の丸山氏は19年4月に会長に就任し、現在3期目を務める。任期は2年。
今回、岩手県はCランクの中で2番目に早く、8月8日に答申した。国の審議会が公表した引き上げ額の目安通りの39円増だった。
しかし、前日に答申した秋田県は目安を5円上回る44円増の897円。その後に答申を出したCランクの県は秋田県と同様に目安に上乗せした引き上げを決めた。岩手県だけ、全体の動きについていけなかった形だ。
最低賃金を決める際に考慮すべき要素は①労働者が生活のために必要な費用②賃金水準③企業の賃金支払い能力、の三つとなっている。労働者側は生活のために必要な費用を確保するために最低賃金の引き上げを訴える一方で、使用者側は中小零細の支払い能力の不安を主張し、議論は往々にして平行線をたどるという。労使が歩み寄れない中、行司役となる公益委員が提案をし、それを基に決定するのが通例となっている。
ただ、公益案も必ずしも双方が納得するわけではなく、岩手県の場合、今回、多数決で労働者側が反対し、使用者側と公益委員の賛成多数で決まった。ちなみに前年度は使用者側の委員が反対に回り、労働者側と公益委員の賛成多数で決まっている。
秋田県が前日に答申した段階で、公益案が提案され、岩手県の方向性は固まっていた。そこで、あえていままでの議論をなかったことにして、目安を上回る議論を再開しようとは考えなかった。
丸山氏は「(答申は)地域格差の是正や物価上昇などについても公労使で十分に議論して決まったものだった。その議論自体に瑕疵(かし)はないと、いまでも確信している。もし議論を再開して答申を遅らせたなら、地域の事情で議論をすると言いながら隣の県の実情に応じて議論するみたいな話になってしまう」と話した。
公益案は国の目安通りの39円増だった。目安を上回って引き上げなかった理由について、丸山氏は岩手県内の経済実態があったとも説明する。
跳ね上がった「未満率」が問題に
最低賃金が定められると、そ…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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