冬の酒蔵、再会を喜ぶ味 佐々木蔵之介さんの母の味と蔵人の唐揚げと

 風が冷たくなると、酒造りの季節がはじまる。

 京都の洛中唯一の造り酒屋「佐々木酒造」。夏の間、ひっそりとしていた酒蔵に活気が戻る。

 蔵人たちが素顔に戻る「まかない」の時間。そこには、再会と、共に酒造りをする喜びを分かち合う二つの味がある。

     ◇

 東の空が白みはじめるころ、二条城のすぐ北にある酒蔵の屋根の隙間から湯気が立ち上る。

 足元から寒さを感じる京の底冷え。米を蒸す「甑(こしき)」と呼ばれる大型の蒸し器から出る湯気に、蔵人たちは、時折、手をかざす。

 午前7時。米が蒸し上がると、ほんのり甘い蒸し米の香りが一気に立ちこめる。

 こうじ米の栗のような香り。酵母が発酵するかすかな音。刻々と変わるもろみの表情……。

 酒造りの指揮をとる田中豊人杜氏(とうじ)(56)は「酒造りは、生き物を育てる感覚に近い」。7人の蔵人は香り、温度、音、あらゆる感覚を研ぎ澄まし、酒造りに向き合う。

 そんな蔵人らの表情が和らぐのが、昼のまかない時間だ。

婚約者から贈られた酒かす

 佐々木晃社長(53)や、兄で俳優の佐々木蔵之介さん(55)ら三兄弟の母、紀美江さん(83)が、かつては20人ほどいた蔵人に、新酒の酒かすで作ったかす汁をふるまっていた。

 紀美江さんは、先代社長で、夫の勝也さんとの婚約当時、山梨の実家に届いた酒かすの感動を忘れない。

 「白くて、香りがよくて、ああ、こんなきれいな酒かすがあるんだなって」

 結婚して京都へ。義祖母から…

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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