今から30年ほど前、なりたりえさんの家に1匹の犬がやってきた。
「ポッキー」と名付けられたビーグル犬で、父が勤めていた製薬会社の検査犬だったところを譲り受けた。
家族には吠(ほ)えないけれど、他人にはワンワンとよく吠えるポッキー。
幼稚園児だったなりたさんにとって、まさに番犬のような存在だった。
一緒に暮らして7年が経ったころ、ポッキーを連れて家族旅行に出かけることになった。
初めて一緒に行った旅行で、それは「お別れの旅」でもあった。
◇
車で神奈川の自宅を出発し、1泊して目指したのは青森。
立ち寄った大きな公園や湖のほとりで走り回るポッキーは、とてもうれしそうだった。
初めての旅行に喜んでいる姿を見て、なりたさんも楽しかった。
でも、ふとした時に「着いたらお別れなんだな……」と寂しくなった。
自分の願いごとがかなったばっかりに、別れることになったのだから。
当時、なりたさん一家が住ん…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル