副知事に近づいた「Aさん」 公選法違反事件の温床は山口県庁の忖度

 「今回も頼むね」「分かりました」――。2021年の衆院選山口3区で当選した自民党議員の後援会入会を巡る公職選挙法違反事件。山口地検が開示した刑事確定記録には、党関係者から副知事が協力を求められ、職員らが政治活動に立ち働く状況が生々しく記されている。浮かび上がってくるのは、当時の政治状況を踏まえて「忖度(そんたく)」する県庁の姿だ。

「入会申込書を配らないといけない」 副知事、庁内の自室で指示

 刑事確定記録は朝日新聞の請求に対し、山口地検が2月に開示した。供述調書などによると、事件はこのような経緯をたどった。

 「今回も頼むね。林先生のやつなんだけど」

 発端となったのは21年4月下旬、小松一彦副知事(当時)が「Aさん」と供述調書にある人物から、参院議員だった林芳正外相の後援会入会の勧誘への協力を求められたことだった。

 これを了承した副知事は県庁の自室に部下を呼び、「自民党からの依頼でリーフレットと入会申込書を配らないといけない」と説明。衆院山口3区(宇部市や萩市など)に自宅や出身校、本籍地がある県職員のリストを作るよう指示した。前後して、約3千枚のリーフレットと入会申込書が副知事室に運び込まれた。

 指示を受けた職員は、全職員の人事データが入ったファイルから条件に合う職員をリストアップして印刷した。重要な個人情報である人事データは本来、業務を円滑に進めるために使うもの。選挙に活用されることを想像したが、「深く考えないようにした」という。

 副知事は、リーフレットなどを部局ごとに封筒や紙袋に仕分けさせ、作成された職員リストを入れた。各部局の幹部を呼んで手渡し、部下への配布と回収を依頼した。

 「無理をしなくていい」と付け加えたが、「私が個人的に依頼したからではなく、副知事として指示したから引き受けてくれた」と認識していた。

 副知事はどの選挙に向けた後援会勧誘かまでは「Aさん」から聞かされていなかった。だが、林氏がその年に予定される衆院選で山口3区にくら替え出馬を狙っているとの報道があり、「Aさんからの依頼は林議員がその選挙で確実に当選できるように、支援者を集めるための準備だろうと考えた」。職員リストを3区関係に絞ったのはそのためで、「同級生や知り合いに協力を依頼してくれる可能性がある」として、選挙権を持つ職員以外も入れるよう求めた。

公選法違反事件の概要

起訴状などによると、副知事(当時)は21年4月下旬ごろ、副知事室で部次長級職員5人に林芳正氏の後援会の入会申込書やリーフレットを渡し、入会するよう県職員78人を勧誘させたとされる。副知事は同年12月、公職選挙法違反(公務員の地位利用)の罪で罰金30万円の略式命令を受け辞職した。県の調査チームの報告書によると、県の幹部職員195人が後援会への勧誘行為を依頼され、うち191人が応じていた。山口市の幹部職員2人も同罪で罰金の略式命令を受けた。

 各職場で配られた入会申込書…

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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