創業110年の葬儀社の「攻めた」CM 死との向き合い方を問う

 【愛媛】スーツにネクタイか、ロングヘアにブラウスか。自分の葬儀にどちらの「遺影」を使うか、トランスジェンダーの父親は悩んでいた。娘は笑顔で「いっそ両方、並べちゃえば?」。

 昨年12月に創業110年を迎えた「村田葬儀社」(松山市)は、ユーモアと哀感をちりばめたテレビCMを通じ、死との向き合い方を提言してきた。

 地域の枠を超え、国内外で評価されるCMの制作を指揮したのは、社長の結城旬さん(55)。「価格や施設を宣伝するだけがCMではない」と言い切る。

 ブランディングとリクルートを目的に作った第1作は2015年、昔話「桃太郎」が下敷きのアニメだった。

 川で洗濯するおばあさんの前に、大きな桃が流れてくる場面でいきなり「おしまい」と告げられ、「終わりは、突然やってくる」とナレーションが入る。

 時代劇「遠山の金さん」をパロディーにした翌年の第2作も同じ趣向。お白州で悪漢らに奉行が片肌を脱ぐ直前、乾いた効果音とともに「終」と表示される。

 17年の「旅立ち編」では表現を一変させた。

 彼岸への旅路に見立てた列車の乗客同士が主人公。男性編と女性編の各60秒で、家族から託された副葬品を見せ合い、発車ベルに耳をそばだてる姿を描写した。「予算の桁が違う」大手のCMと競い、国内外の広告賞に選ばれた。

 「2作目までは『百年企業の村田が何をしている』と心配された」と話す結城さんは、サザンオールスターズをイメージしたという。「デビューシングルからコミカルな曲を2作続け、3作目のバラード『いとしのエリー』で人気を決定的にした」

 そして、22年に話題を呼んだのが、LGBTという現代的なテーマをドラマ仕立てで扱った「自分らしく生きる。」だった。

 葬儀社として異例のCMを巡っては、社内で「旧来の葬儀観を持つ層の反発を呼ぶ」と慎重論もあり、公開は完成から約1年後。だが、4分のロングバージョンはユーチューブで約3カ月間に15万回以上視聴され、昨年には性の多様性がテーマの映画祭などに出品された。

「百人の故人がいれば、百通りの葬儀」

 結城さんは先代社長の娘婿で、10年から社長。冠婚葬祭互助会の利用者が増え、古くからの葬儀社はビジネスの見直しを迫られていたタイミングだった。

 実家が呉服屋で、「葬儀社とは違うDNAを持っていた」結城さんは、13年の創業100年を機に、社員が一体感を持って仕事に当たるよう、外の視点も採り入れた意識改革を図った。

 社業を「人が人を想(おも)うきもちに寄り添う仕事」と再定義し、4項目の「ムラタイズム」を制定。社会で果たすべき役割や「葬送文化の発展に寄与」とする会社の目標を明示した。

 葬儀の担当者に「特別なイベントの企画者」との自覚を持たせようと、「エンディングプランナー」と命名。広い視野を養うため、職人気質のベテラン社員を説得し、県外の異業種交流研修に派遣した。

 社員の提案も積極的に採用した。遺族との数日間の対話をヒントに、プランナーが工夫した副葬品を贈るサービスもその一つだ。故人の愛車の模型、世界遺産写真集、好物だった麻婆豆腐……。サプライズで様々な品がひつぎに納められた。

 「攻めた」CMの数々も改革の一環だった。

 「我々の世代では、カミングアウトできなかった方も多かっただろう。でも、今の若い人たちが寿命を迎える頃には普通にあり得る未来予想図を、短いドラマにした」と結城さん。「百人の故人がいれば、百通りの葬儀があっていい。社会に対して葬儀社が発信できることはまだまだあるはずだ」

 次作にも注目が集まるが、構想は白紙だ。「大手と違って締め切りがないのも中小企業の良いところ、という言い訳でご勘弁を」。笑顔で語った。(戸田拓)

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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