加計学園問題から1年、地元の今治で見たシャッター通り

 安倍政権の「6年半」が問われる参院選が中盤に入りました。少子高齢化が進む中、疲弊する地方経済をどう立て直していくかも切実な課題です。参院選が公示された翌5日から4日間、造船業やタオル生産などで栄えてきた愛媛県今治市で取材しました。

 今治市は海上交通の要衝にあり、商業都市として栄えてきました。いまは他の地方都市と同じく、人口減などに伴う経済の衰退にあえいでいます。

 そんな今治市をなぜ取材先に選んだのか。活性化の起爆剤として昨年春、ここに大学の新しい学部が開設されたからです。学校法人加計学園が運営する岡山理科大獣医学部です。

 この学部は開学に際し、安倍政権との関係が取り沙汰されました。政権肝いりの国家戦略特区制度を使った規制緩和によって認可にこぎつけたのですが、その過程で学部新設は「総理のご意向」などと記載された文部科学省の文書が発覚。加計学園の理事長が安倍晋三首相と極めて近い友人関係だったことから、国会で野党に追及されました。県や地元も大きく揺さぶられました。

 開学から1年、大学ができて今治はどうなったのか。今後どうなるのか。その現状を知りたくて、今回足を運んだのです。

 大阪社会部の記者である私は、不透明な国有地取引が明らかになった学校法人森友学園(大阪市)の問題を取材してきました。いわゆる安倍政権への忖度(そんたく)が取りざたされた「モリカケ問題」の「モリ」の方です。「カケ」も昨年、同僚とともに取材にあたりましたが、今治で取材することはありませんでした。

 生まれて初めての今治。獣医学部は、市街地から少し離れた小高い丘にあります。大学近くにある集落の自治会長、山下昌彦さん(72)が取材に応じてくれました。かつて今治タオルの製造工場を営んでいましたが、中国産の安価なタオルに押されて30年前に廃業。現在は手袋の工場を経営しています。廃業前、今治にはタオルの製造業者は500社ほどあったそうですが、今は100社ほどとのことです。

 山下さんは、大学開学を喜んでいました。「造船業も中国や韓国との競争が激しいし、今治の伝統的産業だけでは地域に活力は生まれない。若者は働き口がなくて出ていく。学生が増えれば、地域は明るくなるよ」

 丘のふもとには、真新しいアパートが建っていました。周辺住民に聞き、大家さんの自宅を訪ねました。

 親から受け継いだという土地に学生専用のアパートを建てた女性(63)は、アパートの10部屋はすでに満室だと言います。「加計学園さまさまです。学生さんはスーパーや飲食店にも行くでしょ。地域ににぎわいが生まれている」。ただ、「この周辺以外は、大学ができたからといって何も影響ないんじゃないかしら」と思案顔になりました。

 丘を下った市の中心部には、今治商店街があります。人通りが少なく、まさに「シャッター通り」という言葉がふさわしい光景でした。時折、お年寄りがシニアカーに乗って私の前を通り過ぎていきます。

 それでも地元の人たちは、何とか地域を盛り上げようと頑張っています。今治商店街協同組合は毎週、土曜夜市と呼ぶイベントを開いています。土曜日だった6日夜に商店街をのぞくと、露店が立ち並んで大勢の家族連れらでにぎわっていました。

 忍び寄る衰退の影に、商店主たちは悩んでいました。大学が活性化につながればと願う一方、具体的な道筋はまだ見えません。

 ある商店主は、こう漏らしました。「地域が協力して大学をもり立てていくべきだが、認可の問題で騒がれた。情けない気持ちだ。学生さんが来てくれるのは本当にうれしい。だからこそ、ごたごたが起きたことは残念でした」

 今後、学生数は毎年200人ずつ増え、最終的には1千人を超える見通しです。ただ、ある地場企業の経営者は「地域経済は疲弊していて、働く場を確保していく必要があります。短期的に若者が増えたとしても、どれほど地域の活性化につながるかは疑問です」と漏らしました。

 今治市は今後、どのように地域や経済の活性化に取り組んでいくのでしょうか。菅良二市長に取材を申し込みましたが、「渇水対策の陣頭指揮」を理由に断られました。今治に限らず地方都市は人口減少に歯止めをかける特効薬がなかなか見つかりません。大学はできましたが、正念場はこれからも続くんだと思いました。(吉村治彦)


Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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