入試シーズンが本格的に始まりました。コロナ禍の中で頑張っている受験生たちへ、校長たちからの言葉をお届けします。
校長から受験生へ:麻布中学・高校の平秀明さん
すべての受験生にエールを送ります。目標を定めて努力し続けた事実はみんな同じ。それはとても尊いことです。入試は実は自分との闘いです。皆さんは成績が上がらない、先が見えない、楽をしたいといった様々な自分に打ち克(か)ってきたのです。
本校を志望した子どもたちは全員入学させてあげたい。合格発表で大喜びする姿、歯をかみ締めて去っていく姿を見て、いつも思います。
合格、不合格は紙一重。限られた教科、範囲、時間の中での学力測定に過ぎません。どちらにしても結果を引きずらないでほしいです。合格を手にしても、それはスタートラインに立ったというだけのことです。
私は時に、「成功の反対はなに?」と生徒たちに聞きます。多くは「失敗」と言うでしょう。私は「チャレンジしないこと」だと思います。成功と失敗はコインの表裏。結果はほんのちょっとした運の違い。チャレンジしたこと自体が貴重なのです。若い人はどんどん挑戦し、そして失敗をしていい。失敗こそが人間としての成長を促すのです。
コロナ禍のもと、子供たちは本当に頑張ってきました。個別試験をやめる大学もありますが、挑戦させてあげるべきです。教育は医療と同じく、止めてはいけないエッセンシャルな分野です。振り返れば、9月入学論をはじめ、今回の大学入学共通テストの日程後ろ倒し論などは、実に飛躍した議論でした。思慮なく小手先の改革を行っても何も解決しません。
昨年6月、遅れて実施した入学式で「かつてニュートンは、ペストの大流行で通っていたケンブリッジ大学が休校になり、故郷で過ごした1年半の間に万有引力の法則や光学、微分積分法など主要な業績の着想を得た」と話しました。ままならない時だからこそ、思索を巡らすことができるのです。
学校の一番の役割である人と人との磨き合いも、行事の縮小などで様々な制約がありました。私も、生徒から「文化祭を実施して欲しい」と熱く訴える長い手紙をもらいました。時期をずらし内部のみで開催しましたが、他方、運動会は中止になりました。そうした苦しい経験が、他者へ思いが至る人間を育てるのだと思います。
勉学はすべての根っこになります。本校の校歌には「愛と誠を もとゐとたてつ」とあります。若い人たちには真理を尊ぶ学問を大切にし、権威をうのみにせず、本質を見極める力で社会に貢献して欲しいと願います。
私は草花を育てるのが好きです。いま校長室で水耕栽培しているヒヤシンスは、どれもしっかりと根が張っています。だから茎が支えられ、美しく花が咲きます。今年、正門からのアプローチにパンジーを植えました。行き来する受験生たちを少しでも力づけられたらと思います。(聞き手・柏木友紀)
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〈たいら・ひであき〉1960年、東京生まれ。麻布中学・高校卒。東大工学部、教育学部を卒業後、麻布学園に数学科専任教諭として28年間勤務。2013年から現職。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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