匂い立つ華、客席一人ひとりに愛届けた 佐藤しのぶさん

惜別 ソプラノ歌手の佐藤しのぶさん 61歳

 輝かしくてあでやかで、匂い立つような華があった。170センチ近い舞台姿はプリマドンナそのもの。ヴィオレッタやトスカといったオペラのヒロインの人生を幾度も歌い上げ、甘くせつなく深遠なる総合芸術の世界へとファンをいざなった。オペラのカーテンコールで「しのぶちゃんっ!」と客席から声がかかったのはこの人くらいでは。

 子どものころはピアノ一筋。中学生で歌に目覚め、声楽の道へと踏み出した。国立音楽大を卒業後、狭き門のオペラ研修所へ。そこで所長だった作曲家の團伊玖磨(だんいくま)に出会う。「歴史上の人物だと思っていたので、『生きているんだ』って驚いたんです」。そう語る笑顔のチャーミングだったこと。

 研修所では2年間、いつも朝は一番乗り。約2時間かけて埼玉の自宅から東京・代々木へ通い、稽古場の掃除を済ませ、発声練習もして講師や研修生を迎えた。修了後は「メリー・ウィドウ」「椿姫」「トスカ」などで主役を射止め、新星現ると話題をさらった。

 転機は1987年の紅白歌合戦だった。本番当日、駐車場で守衛に止められたり、トイレで発声練習を始めてほかの出演者をうならせたり。異色の初出場ながら、静まりかえったNHKホールに響いた「オンブラ・マイ・フ」は神々しくもあり、一気にその存在を知らしめた。

 そんなプリマのもとへ一通の手…

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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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