10月11日、東京・市谷の防衛省。10階にある記者室の窓から外を見ると、眼下の同省グラウンドに、モスグリーンの2つの車両が置かれていた。前日にはなかったのに突然の出現。航空自衛隊の地対空誘導弾パトリオット(PAC3)である。
全長5メートルほどで、上部には細長いミサイル発射機を装備している。訓練や整備目的以外で姿を見せたのは1年3カ月ぶりだった。
その目的を防衛省は明らかにしていないが、はっきりしている。北朝鮮のミサイルが飛来する可能性が全くのゼロだとはいえない状況になったからだ。
前日の10日、北朝鮮の外務省報道官が、長距離の大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験の再開があり得ると警告する談話を発表した。ICBMが日本列島を飛び越えて太平洋に向けて発射された場合、日本への攻撃が意図されていなくても、途中で誤作動を起こして日本に落下する事態が絶対に起きないとは言い切れない。
そこで防衛省は、米朝首脳会談の開催を受けて「脅威が低下した」と平成30年7月に撤収した全国のPAC3を、再び展開したというわけだ。防衛省は今も警戒レベルを維持し、グラウンドにセットしている。
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現在の日本の弾道ミサイル防衛は「二段構え」になっている。万が一、北朝鮮からミサイルが飛来した場合、日本海のイージス艦に積んだ迎撃ミサイルSM3が迎撃を試みる。打ち漏らした場合は地上への着弾直前、PAC3が迎撃する。
超音速で飛んで来る弾道ミサイルを撃ち落とす技術は「ピストルの弾をピストルで撃ち落とすようなもの」と表現される。敵ミサイルの速度や軌道にもよるが、迎撃は上空わずか十数キロ、着弾の数秒から10秒ほど前になるだろう。
防衛省関係者は「迎撃時の衝撃波で地上はかなり揺れる。ビルの窓が割れるかもしれない」と話す。破片が落ちてくる可能性もあるが、それでも敵ミサイルに襲われるよりはるかにマシだ。PAC3はまさに「最後のとりで」といえる。
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10月9日朝には東京・有明の東京臨海広域防災公園で、空自霞ケ浦分屯基地(茨城県土浦市)第1高射群第3高射隊による展開訓練の様子が公開された。発射機が「ウィーーン」という機械音を発しながら回転し、上空に向けて構える動作に、公園でジョギングや犬の散歩をしていた近隣住民も何事かと足を止め、見入っていた。
「弾道ミサイルへの即応態勢を国民にお示しすることで、国民の生命と財産を守るという安心をしていただけるのではないか」
訓練指揮官を務めた同高射隊長の前田章輔2等空佐はこう語った。北朝鮮の脅威が高まる中、「目に見える安心」をアピールする目的もあった。
PAC3は米ロッキード・マーチン製で、迎撃ミサイル発射機、レーダー、射撃管制装置、通信機器などで1セット。全国17部隊に34機が配備されている。1機につき16発搭載できる。高度を2倍程度に伸ばし、精度も向上する改良版「PAC3-MSE」に、令和4年度末までに入れ替えていく方針である。
もちろん改良されても命中率は100%ではないし、1発でも撃ち漏らせば被害が大きい。政府は他の迎撃システムも導入し、より多層的な防衛態勢の構築を目指す。(政治部 田中一世)
Source : 国内 – Yahoo!ニュース