南極観測船しらせ(基準排水量1万2650トン)が22日、神奈川県横須賀市の海上自衛隊基地の横須賀港に帰国した。新型コロナウイルス感染予防のため、日本と南極間の往復2万9千キロを無補給・無寄港で往復。1956年11月の1次隊出発以降初めてだった。
1月19日に昭和基地沖を離れ、61次観測隊越冬隊28人と62次夏隊13人と乗員、総勢220人が初めて一緒に赤道を越えて帰国した。初の感染が確認される前の一昨年11月に出発し、1年余り南極で暮らした61次越冬隊にとって新型コロナのある世界は初めて。数日前から船内でマスクを着けて慣れる準備をした。
コロナ禍で異例づくし
今季の62次隊は、コロナ禍で異例づくしだった。観測計画を縮小し、隊員は半数以下に。出発前は2週間の隔離期間も設けた。例年は隊員は日本と豪州間は空路で、しらせは先に出発し、豪州で燃料や食料を補給する。無寄港で最も大変なのは燃料だ。万一に備え、出発前に日本近海で洋上補給の訓練もした。いかに燃料消費を抑えるかが課題で、昨年11月の出港から行程は95日間と、例年のしらせ行動日数の6割に短縮した。
海氷が厚い所は船をバックさせ、勢いをつけて前進し体当たりする。この砕氷航行「ラミング」は通常の何倍も燃料を使う。船体が「ゴン、ガガガ」と大きな音をたてて氷をかき分けるが、進めないことや押し戻されることもある。衛星画像や気象のデータを見て航路を選び、燃料を綿密に計算したが、岩瀬剛航海長は「実際の氷の厚さや硬さはその場でないとわからない」。竹内周作艦長は艦橋で細かい指示を出し続けた。「燃料を無駄にできない。1メートルでも進まなければ」との思いだった。「氷海を抜けた瞬間は心の中でガッツポーズしました」
観測の継続は死守
観測隊は夏隊を減らしたが、越冬隊の態勢は維持した。「長年続けている観測データの継続や国際観測網の一翼を担う観測を優先した」と橋田元(げん)62次隊長は語る。
注目されるのが、温暖化による南極大陸の氷床や海の変化だ。氷床の融解が懸念される一方、湿った大気の流入で降雪が増える可能性もあり、昭和基地で降雪の観測を始める。大陸沿岸など各地で位置や重力も測り続けている。重しになっている氷床の質量が変われば大陸も動くからだ。
氷がとければ海に淡水が入り、塩分や海洋循環にも変化は及ぶ。温かい海水が氷河末端をとかし、氷流失を加速している可能性もうかがえる。氷床の変化と地球規模の海洋循環の連動がみえてきたが、メカニズムは複雑だ。地球環境の将来を予測するため、南極観測は重要性を増している。(中山由美)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル