東京電力福島第一原発事故で群馬県内に避難した住民らが国と東電に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が21日、東京高裁(足立哲裁判長)であった。一審・前橋地裁は国と東電に同等の責任を認めたが、高裁は国の責任を否定し、東電だけに賠償を命じた。賠償額は90人に対する約1億2千万円で、62人への約4千万円だった一審から上積みした。
原発事故をめぐる避難者らの集団訴訟は全国で約30件あり、地裁判決が出た14件のうち、国の責任まで認めたのは7件と判断が分かれている。控訴審の高裁で判決が出るのは昨年9月の仙台高裁に続き、今回が2件目。仙台高裁は国の責任を認めており、高裁レベルでも判断が割れた。
争点は政府の「地震調査研究推進本部」が2002年に公表した「長期評価」の信頼性だった。東北沖でマグニチュード8・2級の津波を伴う地震が来る可能性を示す内容で、前橋地裁は信頼性を認めていた。一方、東京高裁は当時の土木学会の知見と食い違う点などを踏まえ、「長期評価から実際の津波の発生を予見できたとはいえない」と信頼性を否定した。
さらに、長期評価に基づいて東電が計算した津波と実際の津波は規模や態様が大きく異なっていたことなどから、「長期評価を前提に措置を講じても事故は回避できなかった」と認定。国が規制権限を行使して東電に事故を回避する措置を命じなかったことは「著しく合理性を欠くとは認められない」と結論づけ、国の責任を否定した。
一方、東電については「原告は平穏な日常生活を送る利益を事故で侵害された」と指摘し、責任を認めた。前橋地裁は原告137人のうち62人に計3855万円の支払いを命じたが、高裁は避難前の居住地域などを個別に検討し、90人を対象に計約1億2千万円(1人当たり7万~1494万円)まで上積みした。
原告弁護団は判決後、「裁判所は国のまやかしの主張にごまかされ、長期評価より業界内部の基準にすぎない土木評価技術を優先した」と批判する声明を出した。賠償額の上積みについても「完全賠償にはほど遠い」とした。会見した馬奈木(まなぎ)厳太郎弁護士は「仙台高裁の判決と全く正反対。予見可能性を認めない理由が今までの判決で最もひどい」と話した。(根津弥、三浦淳)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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