昨年4月、政府は東京電力福島第一原発の処理水を海洋放出する方針を決めた。増え続ける汚染水は事故直後からの課題だったが、政府も東電も先送りを続け、タンクの容量が限界に近づいた末の決着だった。政府や東電は海洋放出の安全性を強調するが、風評被害などに対する地元の不安は高まったまだ。
多核種除去設備(ALPS<アルプス>)
増え続ける汚染水から放射性物質を取り除き、その濃度を下げるため、2013年に導入された。セシウムやストロンチウムなど放射性物質62種類を除去できるが、水の状態で存在するトリチウムは取り除けない。
放出始まってもなお難しい見通し
東電は処理水の海洋放出に向け、今年6月から本格的な設備工事を始める予定だ。海底トンネルについては、地下鉄工事などに使う大型掘削機で、原発沖の海底地盤を掘り進める。東電は「数カ月でできる」とするが、硬い岩盤があれば、その分時間はかかる。
また、政府と東電は放出開始1年前となる今春ごろから、放出開始後のデータと比較するため、海域の放射性物質のモニタリングを強化する。
国際原子力機関(IAEA)は現地調査を経て、今年中に放出の安全性や人体や環境への影響などを評価する報告書をまとめる予定だ。IAEAは23年春からの放出中、放出完了後も報告書を策定するという。
ただ、放出が始まっても、敷地内のタンクをすぐに減らせるわけではなさそうだ。東電によると、目標とする「30~40年後の廃炉完了」に合わせて、この先30年ほど放出を続けていく。具体的な放出計画は、汚染水の発生状況などを踏まえて策定し、毎年見直していくという。
一方で、雨水や地下水の建屋への流入は続く。昨年の汚染水発生量は1日平均150トン、年間では5万トン超だ。政府と東電は発生量を25年までに1日平均100トン以下に減らすとしているが、その先の目標は示せていない。(川村剛志)
タンク容量限界迫った末の決断
福島第一原発で増え続ける汚染水は、事故直後から大きな課題だった。
政府は13年、「東電任せにせず前面に立つ」と力を入れ始めたが、燃料デブリが残る原子炉建屋に地下水を近づけないため、手前でくみ上げたり、建屋周囲の土壌を凍らせる「凍土壁」を設置したりした。ただ、処分方法は「さまざまな選択肢を検討」「地元の理解を得ながら方針決定へ取り組む」などと先送りを続けた。東電も「国が大きな方針を示す」と向き合ってこなかった。
事態が動き始めたのは、事故から10年目を迎える直前だ。経済産業省の小委員会は20年2月、海洋放出や大気中への放出などの5案を比較し、海洋放出を「現実的な選択肢」「確実に実施できる」などと結論。政府は同年10月までの意見聴取会を経て、「主な関係者から意見を聴き終えた」として方針決定に傾きかけた。
この時は、全国漁業協同組合連合会(全漁連)などの反発が根強く、「時期尚早」(政府関係者)と見送られた。しかし、限界が迫るタンク容量と、約2年を見込む放出の準備期間を踏まえれば、早期の決定は避けられない。結局、半年後の昨年4月、政府は海洋放出の方針を表明した。
政府関係者は「もうちょっと早く決断しても良かった気がする」と指摘。「タンクに余裕があるうちは、時間をかけられると判断してきた結果だろう」と説明する。
分厚い資料で一方的に説明、漁師の指摘には黙った政府担当者
決定から9カ月余りが過ぎたが、地元では政府・東電への批判が収まらない。
「海洋放出しても安全という…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル