東日本大震災9年、現場から③
「毎年夏には北海道へ行っています」
2月20日、福島県富岡町。岡田弘雄さん(86)はこの日も同じ話を始めた。柔和な表情もいつも通り。
「教え子たちが集まってくれ、カラオケをします」「福島に帰るな、こっちに住めとも言ってくれます」。岡田さんの独り語りを本田徹さん(72)はすっかり覚えてしまったが、遮ることなく耳を傾ける。
本田さんは、東京電力福島第一原発の南22キロにある高野病院(同県広野町)の勤務医だ。医師不足の窮地を救うため、1年前から週末は自宅のある東京で過ごし、それ以外は福島に滞在。子や孫の世代が避難先から戻っていない高齢者宅への訪問診療に回っている。
岡田さん宅は、2週間に1度訪ねる。北海道で教師をしていた岡田さんだが、診療を始めたころ、看護師から「実は、最近は北海道には行っていない」と聞かされた。アルツハイマー病だった。
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農作業や牛の世話、山菜採り。そんな暮らしが何もすることのない避難生活へと変わり、認知症を患う高齢者は少なくない。岡田さんに症状が表れたのも、6年の避難生活後、避難指示が解除された自宅に戻ってまもなくだった。
近所の工事現場からスコップやパイプを勝手に持ち帰ってきた。妻が介護施設に入り、自身も入院せざるをえなくなると、「家にかえせ」と杖を振り回した。
- 認知症、穏やかに暮らすために
- 若い世代が帰っていない町で、高齢者が暮らすには。原発事故後に地元を離れなかった91歳の男性について、訪問診療の医師は「施設にいれてしまえば、たちまち認知症が進むだろう」と考えています。
そこで、本田さんは手を打った…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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