オオカミのマスクをかぶり、忍者の服をまとった少年が通学路に立った。目の前には横断歩道を渡ろうとする小学生。車が止まる度に「横断中」の旗を上げ、渡り終えるのをじっと待つ。不思議そうにマスクをのぞき込む子たちに、少年は時折うなずいて応えた。
横断歩道の向こうで、その少年の姿を母の小寺里沙さん(34)は、はらはらしながら見守っていた。「緊張しているようだけど、口は出さないでおこう」。今年3月のことだ。
少年は小寺主真(かずま)くん(9)。福岡市中央区の舞鶴小・中学校に通う3年生だ。初対面の人の前では、里沙さんの陰に隠れてしまうほど恥ずかしがり屋だった。
3歳のころ、里沙さんは離婚。仕事と育児に追われ、何をしても「いやだ」と繰りかえす主真くんにイライラと申し訳なさが募っていた。
でも、たまたま連れて行った地元の遊園地のヒーローショーだけは違った。アクションに目を輝かせ、ヒーローとの写真撮影をせがんだ。毎週のように通い、「今度はこのショーに行こう」「あのキックがかっこいい」と会話が弾んだ。
保育園の卒園式。卒園証書を受け取った主真くんは「スーツアクターになりたいです」と宣言した。「みんなに喜んでもらいたいから」。主真くんが頼もしく、応援しようと決めた。
殺陣の教室に通い始めて1年ほどたったころ、思い出の詰まった遊園地が2021年末で閉園されることになった。がっかりする主真くんに、同じ教室に通う先輩ヒーローから声がかかった。「一緒にやろう」。閉園前にファンとヒーローが共演するステージが設けられ、最後の舞台でデビューすることが決まった。
主真くんは一番かっこいいと…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル