甚大な被害をもたらした台風19号は、都市部における避難所運営のあり方にも課題を突きつけた。平成以降、30年以上にわたって避難所開設の経験がなかったという東京都台東区は、路上生活者(ホームレス)の利用を「区民ではない」として断り、批判を浴びた。住所を問わず、すべての被災者を受け入れるのが災害関係法令の理念だが、それが浸透していなかった格好だ。自治体には受け入れ後もきめこまかな配慮が求められ、専門家は事前計画の必要性を指摘している。
■「区民の施設」
首都圏に台風の猛威が近づいてきた12日午前9時半ごろ。台東区の区立小学校に開設された自主避難所に、ホームレスの男性が身を寄せた。
避難所の受付では住所や氏名の記入を求めていた。ここで男性は「北海道に住民票がある」と回答。現場で応対した職員は区の担当課に問い合わせた上で「避難所は区民のための施設です」と利用を断った。その後、別のホームレスの男性2人も訪れたが、同様の理由で受け入れを拒んだ。
支援団体がネットで問題視すると、区には抗議の電話が殺到。服部征夫区長が「対応が不十分であり、大変申し訳ありませんでした」と、謝罪に追い込まれる事態となった。問題の検証はこれからだが、平成から令和にかけ、一度も避難所を運営したことがなかったという経験不足が指摘されている。
■受け入れが原則
そもそも災害対策基本法は避難所について「被災した住民、その他の被災者を一時的に滞在させるための施設」と定義しており、内閣府の担当者は「避難したすべての人を受け入れるのが法の精神」と話す。
災害救助法は「現在地救助の原則」を定めており、その地域に住民票を置く住民だけでなく、旅行者や一時的な通過者であっても、現にその人がいる場所の自治体が対応にあたることとしている。
東京に次いでホームレスが多いとされる大阪市の場合、災害発生時に設置が予定される避難所は約550カ所に及ぶが、台東区のような事例は「聞いたことがない」(大阪市の担当者)という。
同市でも受付で住所・氏名を聞くが、健康に不安がある人や介護が必要な人を把握したり、だれがどこに避難しているかを確認したりするのが主な目的。住民か否かを選別するためのものではない。
もっとも、ホームレスが避難所に来ることは少ないという。担当者は「避難所に入ることを避けたがるホームレスもいる。台風接近前に巡回相談員が安全な場所に移るように声かけをしており、シェルターなどに避難するケースが多いのでは」と推測する。
■配慮や事前計画を
災害社会学が専門の岩手大の麦倉哲教授は平成7年の阪神大震災の際、神戸市内でホームレスの避難状況について調査した。当時、地域住民らと同じ避難所に入所したホームレスは、他の被災者の目を気にして危険な路上生活に戻るケースが散見されたという。
麦倉教授は「地域住民との間でトラブルが起きないよう、受け入れ場所の配慮が必要。ホームレスの多い大都市の自治体は事前計画を作っておく必要がある」と指摘する。
ただ、ホームレスとそうでない人とで扱いに差を設けることは平等原則の観点から、別の問題を生じかねない。このため繊細な対応が求められるが、事前計画も含め、多くの自治体でそこまで手が回らないのが現状とみられる。
大阪市を中心に路上生活を送る人の生活・就労支援を行うNPO法人「ホームドア」(同市北区)の笠井亜美さんは「なかには他人とコミュニケーションを取るのが苦手な人や、心身に障害があって集団生活になじめない人もいる」と話し、個室の使用も含めた多様な避難所設置や周知方法の工夫を訴えている。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース
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