【連載】吃音芸人 炎上騒動と“話す”ということ①
誰も笑っていないライブ会場
「わ、わ、わらってくださいね。ずっとまえ、え、え、えんじょうしましたが。わ、わ、わらってくれたらと」
昨年11月中旬、雨が降る肌寒い夜。早稲田大学の学生街、高田馬場駅(東京・新宿)近くのライブハウスは静けさに包まれていた。
配管むき出しの天井が、広さ30平方メートルほどの空間を圧迫する。15人ほどの観客は、ほとんどがライブの出演者だった。
舞台にいたのはインタレスティングたけし(以下、インたけ)、43歳。お笑い芸人。ギターを手に、自らの失敗談をネタにする芸風でやってきた。
「誰も笑っていなかった。20点くらい」と自己採点し、「僕の吃音(きつおん)を笑っていいのかどうか迷っていたのではないか」と続けた。
吃音とは言葉に詰まってうまく話せないことだ。
この4カ月前、インたけは、ある騒動の渦中にいた。
昨年7月、TBSの人気バラエティー番組「水曜日のダウンタウン」。お笑い芸人のチャンス大城が、仲のいい後輩のインたけを居酒屋に呼び、どっきりにかけるという企画だった。
チャンス大城に怒られ、慌てたインたけが言葉に詰まる。会話にならない状態に、スタジオは爆笑に包まれた。
放送後、この番組に対して、吃音当事者やその家族でつくるNPO法人「日本吃音協会」(東京都新宿区)が「吃音当事者への差別や偏見を助長する恐れがある」などと抗議した。
それでは終わらず、今度はこの抗議について「過剰反応ではないか」「吃音者は芸人になれないのか」などの意見がSNS上にあふれた。
ワイドショーでも話題になり、吃音協会はホームページで改めて抗議の趣旨を説明。番組の問題点を指摘しつつ、抗議によって芸人活動に影響を与えたことについては「ご迷惑をおかけした」と謝罪した。
一方、当のインたけはSNSに一言だけつぶやき、沈黙を続けた。
「またテレビ出たいなぁ!」――。
彼は、番組を問題だと思ったのか、それとも抗議を迷惑だと思ったのか。そもそも、なぜ話芸を駆使するお笑い芸人になったのか。私(記者)のなかで次々と疑問が浮かんだ。
芸能事務所に所属しない芸人だったため、本人のSNSを通じて取材を申し込んだ。しばらくして返事が来た。
「取材を受けるかどうかはわからないけど会うだけなら……」
「話す」とは何かを探して
「何が言いたいの?」「結論は何?」。こんな風に簡潔な説明を求められたことはないですか?自分の思いを言葉にできていますか?逆に、人の話や思いに耳を傾けていますか?小学生のころ、吃音だった私(記者)はうまく話せず、話を聞いてもらえないことがよくありました。吃音を通じて、「話す」とは何なのかを探してみました。
■騒動後に沈黙を続けた理由…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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