ジャーナリストの伊藤詩織氏(1989年生まれ)が元TBS記者の山口敬之氏(1966年生まれ)に対し、意識を失っているのに乗じて、合意のない性行為を行い、肉体的、精神的苦痛を受けたとして、損害賠償を求めた民事裁判で勝訴した。刑事事件として山口氏を告訴したが、準強姦(ごうかん)=現在は準強制性交=の容疑は不起訴処分とされた。民事裁判と刑事手続きで、何が違ったのだろうか。(共同通信編集委員=竹田昌弘)
■裁判は民事も刑事も「三段論法」
裁判は、まず証拠によって事実を認定する。それに法規を適用し、そこから法規の効果を引き出す「三段論法」で行われる。
例えば、準強制性交事件の刑事裁判では、検察官が起訴状の内容(被告が人の心神喪失や抗拒不能に乗じて、または心神喪失や抗拒不能にさせて、性行為をした)が事実であることを証拠で立証する。心神喪失は精神または意識の障害により、性行為について正常な判断ができない状態。抗拒不能は心神喪失以外の理由で物理的、心理的に抵抗できないか、抵抗するのが困難な状態とされている。起訴状の内容が事実と認定されれば、被告は有罪となる。準強制性交罪を定めた刑法178条が適用され、裁判所は同条に規定された「5年以上の有期懲役(最長20年)」という法定刑の範囲内で被告に科す刑を決め、宣告する。
同様に例え話だが、準強制性交事件で抗拒不能にさせたことの事実が立証できないなどとして、検察官が不起訴処分としたため、被害者(原告)が損害賠償を求めて民事裁判を起こしたとする。原告は証拠により、主張する事実(被告が抵抗できない状態のときに合意のない性行為をしたことと、それによる損害の発生)を立証する。それらの事実が認定されると、「故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と不法行為に対する損害賠償請求権を定めた民法709条が適用され、裁判所は賠償額を決め、被告に支払いを命じる。
■民事と刑事で事実認定のハードル違う?
このように刑事も民事も裁判は三段論法だが、犯罪を処罰するための刑事裁判では、事実の認定は「証拠による」(刑事訴訟法317条)、「証拠の証明力(事実認定に役立つ程度)は、裁判官の自由な判断に委ねる」(同318条)と定められている。最高裁は「通常人なら誰でも疑いを差し挟まない程度に真実らしいとの確信を得ること」(1948年8月5日の第1小法廷判決)、「合理的な疑いを差し挟む余地のない程度の立証が必要」(2007年10月16日の第1小法廷決定)という事実認定の枠組みを示してきた。「疑わしきは被告の利益に」は、合理的な疑いが残り、有罪と確信できないときは、無罪にすることを表現している。
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Source : 国内 – Yahoo!ニュース
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