名ドラマに名曲あり。朝ドラ「おちょやん」の場合、それはのこぎりだった。「お~ま~え~は~あ~ほ~か~」だけとはちゃう哀愁の音色。総集編で聞き納めです。
たこ焼き理論の音楽
手がけたのは、のこぎり奏者で作曲家のサキタハヂメ(49)。求められたのは、泣きと笑いのはっきり出る音楽だった。「外はカリッ、中はトロッのたこやき理論でした。すげえオーダーやと思いましたね」
のこぎりは、弓でこすると天使のような音が出る。マレット(バチ)でたたくと急にあほな音になる。ボヨォ~ン。「天使からあほって、えらい音楽ですよ」。 ドラマのために作った曲は150ほど。チェロ、トランペット、トロンボーン、ピアノ、ビオラなどとのこぎりは共鳴し、えもいわれぬ旋律で喜劇の世界観を彩った。まさに陰の立役者なのだ。
その一つが、主人公の旅立ちの場面。父テルヲの借金から逃れようとする千代が、小舟から夜の街灯の映る川面を見つめ、「こないなどぶ川にも、花が咲くねんな」とつぶやく。そのときのこぎりは、ピアノ、チェロの音色と相まって、哀愁ある旋律を奏でた。
一方、テルヲの登場シーンはポワーンとユーモラスに。ろくでなしおやじの“んなあほな”感じを際立たせた。
知らんけどサウンド
こだわりはのこぎりだけではない。大阪独特のクセや派手なぶつかい合いを表現したい曲では、大阪のミュージシャンに演奏に加わってもらった。これまでの朝ドラは、大阪制作であっても音楽は東京に任せることが多かったといい、新たな試みだった。
大阪らしい音を、サキタは「知らんけどサウンド」と呼ぶ。「大阪人は、あほなこと言うてからええこと言うたり、ええこと言うても最後に栓緩めたり」。音にもそれがあらわれるらしく、「特に管楽器奏者は、出身地によって音のイントネーションが違う気がする」。
いいシーンにあほな曲
ドラマの場面と音楽を、あえてあべこべにすることにもこだわった。美しいシーンや涙を誘う局面で、「あほな曲を入れる」。千代の父テルヲが死ぬ場面も、「お父ちゃん、おおきに」というしっとりした曲を作りはした。でも、採用されたのは「Life(ライフ) is(イズ) Comedy(コメディー)!」というにぎやか系。対極にすることで、涙と笑顔の輪郭を際立たせた。
泣き笑いの喜劇。それは、のこぎりを音楽活動の相棒にしたサキタの人生そのものでもある。なぜ、のこぎりで食べていくことにしたのか。
記事後半では、サキタさんがなぜのこぎり音楽を始めたのかを語ります。
■ちんどん屋の巡業で…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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