向井地美音さん、元気くれた 病後に車いす、認知され沼にハマる

 病気の後遺症で、右半身が動かない。言葉も思うように発せられない。そんなハンディキャップを抱える西岡毅(つよし)さん(33)=東京都町田市=は、AKB48のあるメンバーを応援して、かれこれ9年超。「推し活」が前を向くエネルギーになっている。

「認知」の喜び

 2月下旬、東京都立川市の「立川ステージガーデン」。毅さんは、母親の文子(あやこ)さんとAKB48のメンバーが出演するコンサートを観覧していた。途中、客席を練り歩く演出で、少し離れた位置から毅さんを指さすメンバーがいた。

 向井地(むかいち)美音(みおん)さんだ。

 「やっぱり気づいてくれましたね。美音ちゃんに『認知』されていますから」と文子さん。アイドル界での「認知」とは、名前や顔を覚えてもらうこと。ファンとしては大きな誇りだ。

「つよぴー」で沼に

 初対面は、2013年12月に横浜スタジアムで開かれたAKB48の握手会。翌月にあったイベントで再び握手したところ、「この間、横浜スタジアムに来てくれたよね!」と声をかけられた。

 「あの一言で『沼』に足を突っ込みましたね」と文子さん。その後「つよぴー」というニックネームまでつけられ、「毅は完全に沼にハマりました」。好きになり、応援をやめられないほどの状態が「沼にハマる」と表現される。

 それからは向井地さんが出演するコンサートや握手会には必ず顔を出し、「出席」を確認してもらうことが楽しみになった。家族でのお墓参りも「向井地さんの出演スケジュール次第」(文子さん)になったという。

仲間の輪の中へ

 7年前からはファン同士の集まりにも参加するようになった。今では向井地さんの誕生日を祝う「生誕祭」の演出を準備する有志の一人として、ファンの間でも知られる存在となっている。「病気をした後は人の輪の中に入らなくなっていたのに、すっかり変わりました」と文子さんは話す。

 毅さんが脳出血で倒れたのは中学2年生の時。命も危ぶまれた状態から奇跡的に回復したものの、右半身のまひと視野の一部欠損、言語障害が残った。車いすを使うようになり、周囲の気遣いを重く感じたのか、外出することも嫌がるようになった。

 それが今ではファン仲間と協力して、向井地さんの活動を後押しする。文子さんは「普段の生活では周囲に助けられることが多くなりがちだけれど、美音ちゃんを応援する時は自分でも力になれるということが実感できているようです」と言う。

「ゴールはないかも」

 握手会に行けば、左手を握り合いながら、たわいもない話をする。別のメンバーのイベントに参加したことがばれて、すねたような態度をとられたこともある。障害者だからといって同情することもなく、他のファンと同じように接してくれるところが向井地さんの魅力だという。

 いずれ向井地さんがAKB48を卒業しても「そのままついていく」と小さな声で答えた毅さん。「このままだと、ゴールはないかも」と隣で文子さんが笑った。(小松隆次郎)

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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