東京都足立区に、猫を社員として迎えているユニークな会社がある。同人誌などの印刷を担う「しまや出版」だ。「事故に遭わないように」と招き入れた野良猫たちが、いつしか会社を支える重要な存在になっていった。そんな「社猫」たちとの日々を、フォトブック「私たち『癒し課』に配属されました」として出版した。
しまや出版は、荒川と隅田川に挟まれた、町工場や住宅が立ち並ぶ地区にある。同社代表取締役の小早川真樹さん(49)によると、周辺は交通量が多く、車にひかれる猫が後を絶たなかった。そんななか、従業員が同社の向かいの空き家に住み着いていた野良猫2匹と仲良くなった。
「せめてこの子たちだけでも事故に遭わないように」と、時間をかけて2匹と距離を縮め、事務所に招き入れた。そして、2010年、猫の日の2月22日、社内に「癒し課」をつくり、社員として「とら」と「タンタン」を迎えた。
あえて「社猫」として扱ったのは、「ちょうど猫の日が近かったし、ブログのネタになっていいかなと思って」と小早川さん。しかし、次第に保護猫の相談を受けることが増え、現在は小早川さんの自宅にいる「リモート社猫」3匹を含めた8匹が、癒し課に配属中。飼い主が見つかるまでの一定期間だけ入社した「インターン生」もいた。
猫たちの世話は、休日も猫好きのスタッフが交代で行う。「癒し課」ができ、繁忙期にはスタッフが猫たちとじゃれることで癒やされたり、真剣な会議中でもぴょんとテーブルの上に飛び乗る猫たちに思わず笑みがこぼれたり。小早川さんも「忙しい時期でも、殺伐とした感じがなくなりました」と評価する。原稿を持ってきたお客さんへの「接客」も得意だ。
フォトブックは、昨年2月に「癒し課」が設立10周年を迎えたことを記念して企画された。猫たちの様子は日々SNSでも発信してきたが、製本業の会社として、本を手に取ったときの感動を大切にしてほしいとの思いもあった。
出版時までに会社と関わってきた全18匹の猫たちを登場させ、掲載する写真はすべて従業員が撮影したものから厳選した。
同人誌の印刷が9割以上占める同社にとって、コロナ禍でコミックマーケット(コミケ)が中止や延期になったことは大きな打撃だった。しかし、「フォトブックづくりによってスタッフのモチベーションを維持できた」と小早川さん。「猫に優しい会社だから」と同社を選んでくれる客もいるといい、「コロナ禍でもつぶれずにいるのは、この子たちのおかげかも。癒し課がなかったらと思うと、ぞっとします」と話す。
小早川さんは、フォトブックを通して、「人と動物が共存する優しい世界につながれば」との願いを込める。保護した猫には、人からの虐待で傷ついた猫もいた。「かわいい猫たちの様子を通し、何か気づきがあったらうれしいです」
フォトブックは、税抜き1500円。区内の小中学校や大学、図書館などにも寄贈している。(塩入彩)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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