和歌山県紀の川市で平成27年、市立名手小5年、森田都(と)史(し)君=当時(11)=が刺殺された事件は、5日で5年。昨年7月には、殺人罪などに問われた中村桜(おう)洲(しゅう)受刑者(27)に懲役16年を言い渡した2審大阪高裁判決が確定し、遺品の服が検察から父親(71)に返却された。父親は「都史君が帰ってきたような感じ」と語る一方、「判決が確定し、事件が世間から忘れ去られるのでは」と風化も懸念する複雑な心境を明かした。(井上裕貴)
都史君の服が返却されたのは、判決確定後の昨年10月。検察が事件当初から保管していたポロシャツやジャンパーなど4点だった。
父親が引き取りに訪れた和歌山地検で担当者が服を入れていた袋を開けると、部屋中に血のにおいが広がった。ポロシャツは事件当時の記憶そのままで、刃物に刺された部分は引き裂かれた痕が大きく残り、事件の凄(せい)惨(さん)ぶりを生々しく伝えていた。
父親は「都史君の悲鳴が聞こえてきそうだった」と振り返るが、「ようやく都史君が戻ってきてくれたようで、うれしかった」とも語る。
服を家に持ち帰ると、何度も洗濯し、血を洗い落とした。そして今も遺影のそばで大切に保管している。
事件から5年。判決確定後初めて命日を迎えるが、“あの日”を忘れたことは一度もない。「何も変わらない。ただ悔しい、腹立たしい、それだけです」と心境を明かす。
昨年末、犯罪被害給付制度に基づき、遺族給付金の一部に当たる160万円が国から支給された。父親は「葬式代程度だ」と肩を落とす。約7100万円の損害賠償を求めた訴訟で、和歌山地裁が平成30年8月、中村受刑者に約4400万円の支払いを命じたが、現在も支払われていない。
刑事裁判の控訴審判決前に「納得のいく判決が出たら納骨する」と語っていたが、遺骨を入れた骨つぼは今も祭壇に置かれたまま。「都史君になんて報告すればいいのか」。今も答えは出ない。
最近は、事件の風化も懸念している。
事件発生当時は、昼夜を問わず自宅周辺に大勢の報道陣が押しかけて騒然としたが、今は住宅街も一転して静かに。判決確定で、さらに「過去の事件」となることを心配する。
「被害者遺族にとって事件の終わりはない。置いてきぼりにされた気分」と父親。「都史君が納得できる正当な裁きを」という思いは今も変わらず、同じような事件が今後二度と起きないことを願う。
「悔しい思いをするのは自分だけでたくさん。少しでも被害者の思いが判決に反映されるよう、社会に訴えていきたい」
Source : 国内 – Yahoo!ニュース
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