新型コロナウイルスによる感染症は、高齢者や持病のある人が重症化しやすいとされるが、喫煙との関係も注目されている。津谷内科呼吸器科クリニック(広島市東区)の津谷隆史理事長は「喫煙は肺の機能や免疫を低下させる上、手を口元に持っていく動きも感染リスクを高める」と警告し、禁煙を呼び掛ける。
▽肺機能低下/喫煙所は「3密」
津谷理事長が評議員を務める日本禁煙学会は、喫煙と重症化リスクに関する中国の二つの論文を分析した。喫煙が病状を悪化させる大きな要因であることが分かったという。一つ目は中国国内の患者1099人のデータ。非喫煙者927人のうち重症だったのは134人(14・5%)だったのに対し、現在喫煙中と過去に吸っていた人を合わせた喫煙経験者では158人中38人(24・1%)に上る。喫煙経験者の重症化リスクは約1・7倍で、死亡リスクも約3・2倍だった。
最初に感染が拡大した武漢で入院した78人の症例を分析したもう一つの論文でも、悪化するリスクは、喫煙者が非喫煙者の約14倍だった。約8・5倍だった高齢のリスクを大きく上回っている。
津谷理事長は「持病がない元気な人が重症化する背景に喫煙が関係している可能性がある」とみる。3月に70歳で死去したタレントの志村けんさんも、かつては1日60本以上吸うヘビースモーカーだったという。
たばこに含まれる有害物質を長期間吸い込むと肺胞が壊され、呼吸機能が低下する慢性閉塞(へいそく)性肺疾患(COPD)などを引き起こしかねない。COPDの人はウイルスや細菌による肺炎を起こしやすく、発熱や呼吸困難の症状が急激に悪化しやすい。同じコロナウイルスである重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)が流行したときも、喫煙者は重症化しやすいことが指摘されていた。
喫煙所の感染リスクの高さも懸念されている。今月施行された改正健康増進法では飲食店や職場などを原則屋内禁煙とし、喫煙は煙の漏れない専用室などに限られる。たばこを吸える場所が少なくなったこともあり、「これまで以上に喫煙者が1カ所に集まりやすくなる」と津谷理事長は危惧する。「3密」(密閉、密集、密接)の状態になりやすい。
日本禁煙学会は喫煙所について「マスクを着用せず、2メートル以内で平均5、6分滞在する場所」と指摘。会話やせき、くしゃみが届く距離だ。仮に喫煙所内に感染者がいた場合、「濃厚接触」の状態に匹敵するとの見方を示している。
喫煙所のドアノブや手すりなどを触った手で、たばこを口元に持っていく動きや、煙を深く吸い込むこともウイルス侵入のリスクになる。全国では既に、喫煙所で感染したと推測される事例も発生。学会は喫煙所を緊急に閉鎖するよう求め、禁煙を促す呼び掛け文をホームページに掲載している。
禁煙しても壊れてしまった肺が元に戻るわけではないが、残った肺の機能と免疫力は回復する。長年たばこを吸っていても、禁煙するのに遅すぎることはないという。
厚生労働省の推計では、国内では年間約12万人が喫煙に関する病気で亡くなっている。受動喫煙が原因の死者も年間1万5千人に上る。新型コロナウイルスによる国内の死者271人(20日午後7時半現在)と比べても、はるかに多い。津谷理事長は「もともと喫煙は健康を害する大きな要因。これに新型コロナの重症化リスクが加わっている。喫煙者自身はもちろん、周囲の人のリスクを減らすためにも今すぐ禁煙すべきだ」と呼び掛ける。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース