記者コラム 「多事奏論」 編集委員・長沢美津子
なるべくなら買いものや飲食は、個人店を選ぶことにしている。その方がおもしろいからだ。知らない土地では日常に一歩踏み込む好奇心、ご近所には顔のわかる安心のテリトリーがほしいのだと思う。面倒な時もあるし、失敗もする。ヒマがあるねと言われればその通りだけれど、自転車を先まで走らせてしまう。
商店街を見回してわかる通り、個人店は減った。けれど消えたわけではない。「喫茶店のディスクール」(誠光社)には、個人の「いい店」が生き残るヒントが詰まっている。小さな商いを成立させる方法論を読みながら、サービスを求める一方の消費者と、店を育てる客の違いを考えることにもなった。
著者は京都、倉敷、和歌山の白浜と三つの街で喫茶店を営む焙煎(ばいせん)家のオオヤミノルさんだ。1967年生まれ。コーヒーの世界では、ネルドリップと深煎りの技術が知られている。
ディスクールとは言説。喫茶…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル