北九州市小倉北区のクラブ「ぼおるど」に手榴弾(しゅりゅうだん)が投げ込まれ、従業員ら12人が大けがをした事件から今夏で18年。福岡県警や警察庁で約16年にわたって暴力団対策を担い、現在は県暴力追放運動推進センター専務理事の藪正孝さん(65)に暴力団を壊滅に追い込めない理由や、工藤会の今後を聞いた。
未解決の「ぼおるど事件」、現場では
――事件発生直後の「ぼおるど」の様子は
福岡県警捜査4課の北九州地区管理官だった。夜9時すぎ、帰宅直後に捜査員から連絡を受けた。ソファがひっくり返り、トイレの便器が粉々になっていた。女性従業員の中には顔や手足にひどいやけどを負ったり足首付近が裂けたりした人もいた。手榴弾は「不完全爆発」だった。完全爆発していたら多くの死者が出ただろう。
――一昨年末、一緒に現場へ行った際、「(容疑者の男は)犯行をためらったのではないか」と。なぜ
防犯カメラ映像だ。男は店に入ったがすぐに出て周辺をぐるっと回り、二度目に入った直後に爆発した。約20人の女性従業員がいたので「やりたくない」と思ったのではないか。
――組織の指示は
店は組員の立ち入りを拒んでいた。事件の前には工藤会系組員らが店内で汚物をばらまいたり、支配人が何者かに刺されたりする事件が起きていた。絶対服従の組織で命令された可能性があるが、容疑者の死亡で上層部関与の有無などの解明ができなくなった。ぼおるど事件は工藤会壊滅を本気で志すきっかけとなった。
――昨年5月に出した著書に事件が頻繁に出てくる。執筆の動機は
ヤクザがヒーロー、とんでもない
いまも暴力団に親近感を持つ人が多くいる。「任俠(にんきょう)」や「ヤクザ」を題材にした映画や漫画でヒロイックに描く作品の影響だろうが、全く違う。真の実態を一人でも多くの人に知ってほしいと思った。取り締まる警察に戦える武器を与えてほしいとの願いも込めた。
――真実の暴力団とは
社会に寄生して犯罪を繰り返す暴力的持続的犯罪組織だ。もめ事解決や災害時の物資支援をとらえて「必要悪」との声もあるが、とんでもない。その原資は犯罪で得たお金でしょ。ましなヤクザはいても、いいヤクザなどいない。
――警察は数十年間にわたって「壊滅」を唱えているのに実現しない
存在を容認、利用する人が依然としているからだ。トラブル解決のために「みかじめ料」を支払ったり、工事金額の一部を提供したりする人たちがいる。暴力団を必要としている層がなくならない。暴力団をつぶすにはここを徹底的にたたかないといけない。
――具体的には
資金提供している人や会社の違法行為を捜査で明らかにし、既存法を使って摘発する。敵本体を支える土壌をたたく「間接的アプローチ」という手法だ。
――警察の捜査に問題はないのか。暴力団側からの情報収集力低下を感じる
内部事情を知っている組員から直接聞くのが王道。組員も人間。直接会って話をすれば有用な情報を得られる。ルールに従うことが大事だが、私が現役時代は捜査員に「時には組員と酒を飲むことも必要」と言っていた。その費用は捜査費で支払う。
――2001年発覚のカジノ汚職で摘発された県警の警察官は、指定暴力団首脳からも賄賂を受け取り、捜査情報を漏らしていた。不祥事を嫌う一部の警察幹部が組員との「接触制限指示」をするのはこうした事例があるからだ
警察の内部規定に基づき、接触の事実を上司に報告し、得られた情報をきちんと管理したうえで組織として共有、活用することが大事だ。カジノ汚職調査に監察官室の一員としてかかわり、それを痛感した。
――工藤会トップで総裁の野村悟被告(74)=殺人罪などで公判中=が20年8月4日の公判で、あなたのことを「まじめな警察官」と述べた。会ったことは?
■工藤会トップと一時間
ある。前任トップの溝下秀男氏(2008年死去)とも会った。意外なことを聞いた。
04年5月、私が福岡県警捜査4課管理官の時だ。指定された喫茶店で初めて会った。1時間ほどの雑談で相手は警察批判、こちらは市民襲撃を非難した。最後に「工藤会をここまでにしたが達成感はない。ヤクザにはなりたくなかった」と。真意は分からなかった。
――お茶代は?
払おうとしたがすでに向こうが…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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