生活困窮者らに郊外の物件を紹介し、空室を埋めて転売する「新たな貧困ビジネス」の疑いがあるとして、弁護士らが16日、厚生労働省に実態調査を申し入れ、記者会見した。問題視するのは、困窮者支援を掲げる東京都新宿区の一般社団法人の活動。元入居者の男性が同日、損害賠償を求める訴訟を起こした。
原告弁護団などでつくる「住宅穴埋め屋対策会議」副代表幹事の猪股正弁護士(埼玉弁護士会)は会見で、「住まいを失った困窮者を空室の穴埋めの駒のように入居させ、高く売り抜ける新たな貧困ビジネス」との見方を示し、「コロナ禍でこうしたビジネスモデルが広がる可能性が十分にある」と語った。
首都圏でホームレス状態の人たちを支援するNPO法人「TENOHASI(てのはし)」や市民団体「反貧困ネットワーク」などには2021年以降、この社団法人に部屋を紹介された困窮者らの相談が計約30件寄せられている。紹介先は東京の多摩地域や近県で、都心から離れた部屋が多い。他の入居者よりも高い管理費を支払わされる、徒歩圏内での仕事探しが難しい、といった相談内容だという。
対策会議は、社団法人と、郊外の物件を所有する複数の不動産業者につながりがあるとみており、家賃を回収しやすい生活保護受給者らで空室を埋めることが目的ではないか、と分析している。実際に、困窮者を入居させて満室にした物件を転売した例もあるという。
対策会議は18日からインターネットで、25日には電話で臨時の相談会を開く。
元入居者、物件紹介の社団法人などを提訴
16日には、対策会議が相談を受けた元入居者の都内の男性(62)が、約束した就労支援が受けられず、入居先から追い出されたとして、社団法人と家主の不動産業者(品川区)に計220万円の損害賠償などを求め、東京地裁に提訴した。
訴状によると、原告の男性は失業中の22年6月、ホームページを見て社団法人に相談。埼玉県入間市やふじみ野市などの部屋を候補として示された。土地勘があって求職活動がしやすい都心に近い部屋を望んだが、郊外の東京都福生市の賃貸マンションを紹介された。入居の前提として、生活保護を申請するよう指示されたという。
賃貸借契約と同時に、就労支援が得られる「生活再建サービス」契約も結び、1万5千円を支払ったが、就労支援は一切なかった、と訴えている。電車代を出すのが難しく、徒歩圏内の仕事を探したが、年齢などの壁もあり、求職が困難だったという。
社団法人などが設備の修理に長期間対応しなかったなどとして、男性が家賃の支払いを留保すると、玄関に別の鍵が付けられ、入室できなくなったとしている。
その後、男性はネットカフェや河川敷で過ごすことになった。いまは知人の紹介で、東京・多摩地域に住み、近く求職活動を再開するという。
朝日新聞は社団法人と不動産業者に見解を示すよう求めたが、いずれも「代表者が不在」とした。(室矢英樹)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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